[古森義久]【我が国安全保障論議の奇妙さ】~日本は国際社会のモンスターなのか?~
Japan In-depth / 2015年3月22日 18時0分
日本の最近の安全保障の論議は奇妙な倒錯が目立つ。日本国を外敵から守るのではなく、日本の自衛隊から守ろうとするような発想が顕著なのである。「歯止め」の名の下に、日本を守る側の自衛隊の行動をあらゆる方法で抑えつけようとする主張が先行するからだ。日本の同盟相手のアメリカからこの日本の「歯止め」論議をみていると、その異端さがいっそう目立つのである。
日本をより効率的、より総合的に守るという意図の新たな安全保障法制の審議が国会でも本格的な段階を迎えた。日本の自衛隊が集団的自衛権の行使容認という新しい背景のなかで、海外でどのように活動できるのか、が主題である。その目的はいうまでもなく日本を守ること、日本国民の生命や財産を守ること、日本の存立に重要な他国の危機に支援をすること、などだろう。
日本を守ることは当然ながら日本本土への直接の軍事攻撃があった場合の防衛だけではない。日本の潜在敵国の軍隊が日本の領土や領海のすぐ外で日本への侵略に着手しようとして米軍と衝突したというような場合に自衛隊が米軍を支援することも、日本を守ることなのだ。
だがこうした日本の安全保障をめぐる論議のプロセスでは常に「歯止め」という言葉が語られる。「歯止め」とは一般的に「物事の行き過ぎや悪化をくい止める手段」を指す。日本の安全保障論議で「歯止め」といえば、普通なら日本を攻撃、侵略、あるいは軍事威嚇する相手への歯止めと考えるのが自然だろう。
しかしいまの日本国内での論議は正反対なのだ。「歯止め」とは日本の自衛隊が他国を侵略や攻撃しないようにその行動に事前に厳しいブレーキをかけておくという趣旨なのだ。その一方、日本への敵に対する歯止め策はまったくといってよいほど語られない。一国の安全保障論議としては全世界でもまず稀有であり、日本の国際的な異端を改めて物語る現象だといえる。
この異端の源流をさかのぼると、どうしても憲法第9条にぶつかる。アメリカが占領時代に起草し、日本の永遠の非武装を企図したこの条項は世界の他の主権国家には例がない。この憲法の条項を変えることに絶対反対だという側には、日本が他の国家並みの自国の防衛の権利を持てば、やがて他国への侵略を始めるという示唆があるといえよう。
その点で思い出すのは3年ほど前にワシントンでの日本の憲法についてのシンポジウムで聞いた以下のような言葉である。「日本は国際社会のモンスターというわけですか。危険な犬はいつまでも鎖につないでおけというのに等しいですね」
スタンフォード大学の研究所などで日米関係やアジア安全保障を専門に研究してきた米人の中堅学者ベン・セルフ氏の言明だった。日本の憲法改正は危険だとする他のアメリカ人学者への反論だった。
だが最近の日本国内の安保論議をみると、日本を国際社会のモンスターとみているのは他ならぬ、当の日本人なのではないか、と実感してしまう。
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