[齋藤実央]【欧州で移民排斥の極右政党台頭】~テロと経済状況悪化が背景に~
Japan In-depth / 2015年3月26日 7時0分
欧州諸国では、今年に入って起きたイスラム過激派による連続テロ事件を契機に、武装グループによるテロへの不安が高まり、(特にイスラム系)移民に対する排斥傾向が強まっている。それに伴い、各国で躍進しているのが、移民受け入れに異議を唱える極右政党だ。
たとえばフランスでは、反・欧州連合(EU)や移民排斥など極端な思想を掲げる極右政党、国民戦線(FN)。同党は、今月22日に行われたフランスの県議会議員選挙の第1回投票で、国民運動連合(UMP)を中心とした保守系政党連合に続く得票率(約25%)を獲得した。
イギリスで支持を伸ばしているのは、EUからの離脱と移民受け入れの凍結を主張する英国独立党(UKIP)。「他のEU諸国からの移民の増加により職を奪われた」ことに不満を覚える低所得層を中心に支持を集めている。英調査機関YouGovが今月21日に発表した世論調査結果によると、同党の支持率は労働党(32%)、保守党(29%)に続き第3位(18%)となっており、今年5月に行われる下院総選挙では獲得議席数を大幅に伸ばすのではないかと注目を集めている。
テロへの不安に加え、経済状況の悪化や失業率の増加など国民の不満が高まる中で、それらの受け皿となり極端なナショナリズムを打ち出す極右政党が各国で支持を広げるのは、自然な流れと言える。しかし、移民を不満のはけ口にするだけでは根本的な問題解決にはならない。以下、今後日本において移民受け入れについて議論される上でもヒントになり得る、欧州で現在進行中の三つの課題を挙げたい。
まず、「誰を市民(シティズン)と定義するのか」これまで市民とは、国家という枠組みの中で考えられてきた概念だが、グローバリゼーションの進展で人の移動が頻繁になっている今日において、「市民=国籍保持者」と一元的に捉えることは困難だ。たとえば、二重市民権(外国籍を持つ移民夫婦の間に生まれた子どもに、出生国の市民権も与えられる場合等)を持つ人々が増加し、またEUのように超国家的な市民権も創設されるなど、事態は複雑化している。市民/非市民の境界線は、どう引くべきだろうか?
次に、「どこまで市民権(シティズンシップ)を認めるのか」先に述べたとおり、多重市民権が発展し、市民という概念が複雑化している現在、「誰にどういった経済的・社会的・政治的権利が付与されるべきか」という問題が未解決のまま残されている。ここでは、誰もが普遍的に持っているとされる「人権」との関係も論点となる。日本における外国籍の人々への参政権付与をめぐる議論にも繋がるポイントだろう。
そして、「民族的・文化的マイノリティをどう社会に包摂(インクルージョン)していくのか」この課題は、多文化社会において重要であると同時に、複数のジレンマを含んでいる。たとえば、国家としての統一性を保持しつつ、マイノリティのアイデンティティ(たとえば母語など)を維持するためにどうバランスを取るべきか。また、彼らの権利を守るために、分離/統合どちらの教育プログラムが適当なのか(または中間策があるのか)など、欧州各国で模索が続けられている。
日本では、労働力確保という文脈で「移民受け入れ」が話題になることが多いが、上に挙げたとおり、シティズンシップ、社会的包摂という観点から整理されるべき課題は山積している。日本も近い将来直面するであろう移民問題に、欧州が今後どのようなアプローチを取っていくのか注視していきたい。
<トップ画像/英国ヨーク大学生による政党別討論会の様子>
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