[神津多可思]【「日本のモノ造り」国内回帰】~ITやビッグデータで生産技術に革命も~
Japan In-depth / 2015年4月13日 7時0分
過去2年余りの円安を背景に、これまで海外に出ていく一方であった日本のモノ造りの一部が国内に戻っているという報道を目にすることが増えた。経済産業省が作成している製造業の国内の生産能力指数をみても、世界的な金融危機を契機に減少に転じ、2009年以降の6年間で5%以上も能力の削減がなされてきたが、ようやく上向きの兆しがうかがえる。
しかし、いったん海外に出てしまった生産ラインすべてがそう簡単に国内に戻せるわけではない。どのような製品であれ、一つの工場で原材料から製品までの全工程を製造している例は稀だ。特に加工型の製造業では、さまざまな部品の供給が円滑になされることが商業ベースでの生産を可能にする大前提となっている。生産ラインの海外移転とは、そうした部品供給なども一括して海外に出ることを意味する。
それらをみな海外に移転させてしまった後、再び全部を国内に戻すというのは極めて大変だ。円安に伴って再び国内回帰ができるのは、一定の生産ラインを国内に残していて、その能力増強余地がある場合が多いのではないか。そもそも、国内の生産活動に従事できる人口は減少しており、また円安になったとは言え、国内の労働コストは東アジア地域に比べ平均的にはなお高い。
他方、欧米の先進製造業の一部でも国内に生産活動を回帰させる「リ・ショアリング」の動きも出ている。これは、海外移転を意味する「オフ・ショアリング」の対語だが、実際の事情には日本と異なる側面もある。まず、米国などでは、国内での賃金格差が日本よりも大きく、特に移民の多い南部地域の賃金は相対的にかなり低い。したがって、賃金格差の算盤勘定は日本とはかなり違う。また、米国にせよ、欧州にせよ、東アジアの生産拠点に関しては物理的に距離が遠い。
これに対し、日本と共通の面もある。先進国の国内市場においては、所得水準の上昇に伴い需要の多様化が進んでおり、少ない種類の商品を大量に生産し安く販売するという伝統的なやり方の限界が次第にみえ始めている。また欧州を中心に人口減少社会に入って行く点も共通だ。そういう環境下でのモノ造りの国内拠点の意味合いは、自ずとこれまでとは違ったものになってくる。
まず、グローバルなロジスティクスが整備された環境下では、材料から最終製品までのサプライ・チェーンをすべて国内に残す必要はない。研究開発や新製品の企画・デザインといった国内の方が生産性の高い機能だけを残す製造業も多い。そうなると、国内に関する限り、製造業といっても、モノ造りというよりは本質的にはサービス産業化しているとも言えるだろう。
また、モノ造りのやり方を抜本的に変える取組みもある。できるだけ人手を使わない製造過程の試行である。ロボット、自走装置といった機械が相互に情報を交換し合いながら、全体としての最適な生産工程を実現するイメージだ。機械間の通信にはIoT(Internet of Things、もののインターネット)の技術が使われる。全体最適を目指す個々の機械の制御には人口知能(AI)が活用される。製品の検査などにはIoTによって大量に蓄積された情報を使ういわゆるビッグ・データの知見が応用される。
このように、人手を使わない効率的な生産によって、低コストで多品種少量生産を実現し、多様化する先進国の国内需要に柔軟に対応していく。そうした新しいモノ造りのあり方が欧米では模索されている。日本のモノ造りの国内回帰においても、こうした側面がより重要になると思う。
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