[Japan in-depth 編集部]【全国レベルのネットワークが必要】~全国妊娠相談SOSネットワーク会議 2~
Japan In-depth / 2015年4月28日 23時0分
日本の年間中絶件数は約20万件。それだけではなく、産まれたばかりの乳児を置き去りにするケースや、生後0日の我が子を殺してしまうケースも多い。そのような女性たちのうち、どの程度の人数が、予期せぬ妊娠の相談窓口が日本全国にあることを知っていて、さらにそのうちどの程度の人数が実際に相談をしたうえで、産まない、育てないことを決めたのだろうか。
4月18日・19日の二日間にわたり、「全国妊娠相談ネットワーク会議」が日本財団主催で開催された。助産師、保健師を中心に全国から50名以上の妊娠相談員が一堂に介して講義を受け、意見交換をすることで、妊娠相談員としてのスキルを上げ、また相談員同士のネットワークを広げた。
講義の内容は、「施設養育がもたらす子供への影響」や「養子縁組について」、「性虐待被害妊婦について」、「相談を受ける者の姿勢や倫理観」など多岐に渡る。予期しない妊娠の先には、「産むか、堕ろすか」だけではなく、「仕事を続けるか、辞めるか」「親に相談するか、しないか」「相手に認知してもらうか、それは諦めるか」「自分で育てるか、他人に育ててもらうか」等、様々な選択をする必要がある。その選択肢をできるだけ多く提示してあげるのが相談員の役目でもあり、そのために彼らは様々な分野の知識を持つ必要があるのだ。
グループワークでは、様々な複雑な背景を持った女性からの妊娠相談を想定したケーススタディが行われ、彼らからの電話に対してどのように声をかけるべきかが議論された。
ケース①不倫関係にある上司との間に子供ができてしまい、堕ろしてほしいと言われたが、産みたいという35歳の女性からの相談
ケース②生理がこなくて妊娠の可能性があるという14歳の中学生からの相談
ケース③夫のDVから避難して漫画喫茶で生活している2歳半の子持ちの女性からの妊娠相談
実際に日々そのような相談電話を受けている相談員たちが、それぞれのケースに対する意見や悩みを打ち明け始めると、議論は白熱した。
全てのグループの発表に共通していたのは「まず『勇気を出して、相談窓口に電話をかけてくれてありがとう』という感謝や労いの言葉をかける」ということだ。予期しない妊娠をした女性は、誰にも相談することができず、一人で悩みを抱えているケースが多い。誰にも相談できないまま、陣痛を迎え、自宅で産み落としてしまう人もいる。罪悪感を抱え、怒られるのではないかと恐る恐る相談をしてきた彼らの勇気を褒め、彼らが安心して相談できるような環境を作らなければいけない。
そのあとは、必要な情報を彼らから引き出していかなければならないが、根掘り葉掘り聞くのはタブーだという。ファーストコンタクトの段階では、慎重に進めて次につなげてもらうことが大切だ。例えばケース②では、まずは妊娠しているかの検査をしてもらうことがポイントであり、「初めから『産むか、産まないか』という質問をしすぎると、電話を切られてしまう可能性があるという。私たちは日々そのことに注意をしている」という相談員の意見もあった。
「相談窓口には、想像力が必要です」と三重県の妊娠相談窓口「MCサポートセンターみっくみえ」の代表を務める松岡典子氏は語る。実際、ケーススタディでは、妊娠した女性に対し、生活保護を受けているのではないか、職業は専門的なものか(一度辞めてもまた就職できるのか)、今回中絶しても避妊リングをつけなければ再度妊娠の可能性があるのではないか等、電話の向こうにいる女性に対してあらゆるケースを想定して議論が行われており、彼らの想像力に驚かされる。相手の気持ちに寄り添うことで、心を解きほぐし、母子ともにベストな解決策を探っていく姿勢を強く感じた。
会議の最後に、主催者である日本財団の赤尾さく美氏が、今後の課題として「地域で利用される相談支援体制の整備」を挙げた。そのためには「多職種で繋がっていくことが大事だ」と述べ、この会で生まれたネットワークを通じて、全国どこでもきちんとしたサービスを受けられるよう、横のつながりを強化する構想を述べた。
彼らのネットワークが広がっていき、妊娠相談窓口の活用が増えれば、出生後ゼロ日で殺される子供は減っていくだろう。予期せぬ妊娠をしてしまった女性は、勇気を出して、まず相談してみてほしい。本人にも、お腹の中の子供にもベストな選択をするために。
(この原稿は、【望まぬ妊娠の悩みに答える取組み】~全国妊娠相談SOSネットワーク会議 1~ の続きです。全2回)
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