[小黒一正]【限界露呈する物価2%達成】~改革の本丸は財政・社会保障~
Japan In-depth / 2015年5月2日 18時0分
先月下旬(4月30日)、日銀はインフレ率(コアCPI)の目標を引き下げ、目標の2%の達成時期を「15年度を中心とする期間」から「16年度前半頃」に変更した。
では、16年度前半頃までに目標は達成できそうか。結論から言えば、それは無理な可能性が高い。
第1は、過去のデータから読み取れる。そもそも、日銀の展望レポート(正式名称は「経済・物価情勢の展望」で、毎年4月と10月に日銀が発表する今後数年間の経済や物価の見通し)等において、インフレ目標は「コアCPI(生鮮食品を除く消費者物価指数)」で設定しており、バブル期(1985~89年)のインフレ率でも、コアCPIの対前年平均は1.2%に過ぎない。
また、最近の原油価格の下落もあり、総務省が2015年5月上旬に発表した3月のコアCPIは、昨年4月の消費増税の影響(約2%)を除くと、前年同月比で約0.2%でしかない。
第2は、日銀は強気の姿勢を維持しつつも、裏側でインフレ目標の達成期限を徐々に後退させている。
まず、2013年の異次元緩和直後、インフレ目標の達成期限について、日銀の黒田総裁は「2年で2%」を強くアピールしたが、既に2013年4月下旬には「2年程度で2%程度」というように、「程度」という表現が加わり、同年10月には「14年度後半から15年度にかけて2%程度」に修正させてきた。
また、2014年10月の追加緩和後の展望レポートでは、「2015年度を中心とする期間に2%程度」に修正し、そして、先月下旬に目標の2%の達成時期を「15年度を中心とする期間」から「16年度前半頃」に変更した。
なお、拙著『財政危機の深層 増税・年金・赤字国債を問う』(NHK出版新書)で詳細に説明しているように、もし異次元緩和を続けた場合、約12年間で日銀はすべての国債を保有し、国債市場が干上がってしまう。銀行や保険会社などが資金運用のため、一定の国債を保有する必要があることに鑑みると、国債市場が干上がるのは、今後4-5年という予測もある。
加えて、もし異次元緩和を今後も継続する場合、日銀の総資産は2016年末にGDP(国内総生産)比80%超に達することが見込まれる。米国のFRB(連邦準備理事会)や欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行(BOE)の総資産(GDP比)が20%台の範囲にあること
を考えると、これは明らかに異常な規模であり、金融政策の出口戦略をより困難にする。
つまり、2%のインフレ目標に固執するのは得策ではなく、改革の本丸は財政・社会保障であり、拡張的な金融政策はその側面支援に過ぎない。このため、金融政策が本当に後戻り不可能となる前に、財政再建の道筋をつけ、できるだけ早急に異次元緩和の見直しを行う必要がある。
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