[朴斗鎮]【投資家ジム・ロジャーズ氏の大いなる錯覚】~北朝鮮に「改革開放の風」は吹かない~
Japan In-depth / 2015年5月10日 7時0分
ジム・ロジャーズ(Jim Rogers、1942年10月19日生)というアメリカ合衆国アラバマ州出身の投資家(現在はシンガポール在住)が盛んに北朝鮮投資が魅力的だと扇動している。最近(5月5日)にも『CNNマネー』とのインタビューで、北朝鮮に投資する意向があるかとの質問に対し、「可能であれば、持っているお金すべてを投資したい」と語ったという。
ロジャーズ氏は「金正恩(キム・ジョンウン)の父や祖父の代なら、絶対投資しないだろう。毛沢東時代の中国なら中国に投資しないと同じことだ」と述べ、 「しかし、毛はこの世を去り、鄧小平が大きな変化をもたらした。北朝鮮では大きな変化が起きている。その子(金正恩北朝鮮労働党第一書記)が驚くべき変化を作りだしている」(ハンギョレ新聞2015年 5月7日 )と北朝鮮の「変化」を強調した。
ロジャーズ氏が指摘する北朝鮮の「驚くべき変化」が何を意味するかは定かではないが、鄧小平以後の中国における変化と金正恩の「驚くべき変化」を並べて語っていることから北朝鮮に「中国式改革開放」の風が吹いていると言いたいのであろう。
しかし金正恩の北朝鮮には残念ながら「改革開放の風」は吹いていない。経済の破たんによって供給が需要に追い付かず、食糧をはじめとした生活必需品などの供給不足を、仕方なく「市場(いちば)経済」で補っているだけだ。もちろんそうした中から金主(トンジュ)と呼ばれる人たちが生まれ、これまでにはなかった商品経済が拡散している。しかし、それをもって「資本家の登場」などと考えるならば大いなる錯覚である。
金主(トンジュ)と呼ばれる人たちが、一定の商行為で資金蓄積を行っているのは確かだが、それはあくまで国家が許容する範囲での蓄積である。北朝鮮国家がそれを危険と感じればいつでも没収できるのが北朝鮮の首領独裁システムであり首領独裁経済なのだ。北朝鮮の金主(トンジュ)たちや在日朝鮮商工人の投資家たちが、投資した企業と資金を吸い取られた例はいくつもある。その口実を作る上で最も簡単なのが「反党反革命分子とつながっていた」という罪名だ。
もしも金正恩政権が過去のような配給制を実施できるまでに経済を回復させたならば、間違いなく金主(トンジュ)と呼ばれる人たちは一掃されるであろう。いま金正恩が行っている「市場経済の黙認」は、それを国家の政策として推進しようとするものではなく、「危機の経済」を支える「彌縫(びぼう)策」として「必要悪的措置」として一定期間利用しようというものだ。とはいえ、金正恩政権が「核と経済建設の並進路線」を続ける限り、経済の回復は見込めない。この「彌縫策」は、金正恩の意図に反して拡散・定着することになるだろう。
ジム・ロジャーズ氏はまた、過去2014 年の講演で「金正恩はスイスで育ったため祖父や父とは異なった考えを持っている」と語ったらしいが、それでフランス留学を経験した鄧小平に重ねたとしたらこれも大いなる錯覚だ。金正恩はスイスで育ったのではない。元山の金正日別荘で生まれ育ちそのほとんどは北朝鮮で過ごした。
一方過去にジム・ロジャーズ氏は、北朝鮮の金貨投資を喧伝し「将来のある時点で、北朝鮮は国家として存在しなくなるだろう。そうなれば、これらコインの価値は上昇するだろう」と語ったとされているが、これが事実であれば、まさに「ハゲタカ投資家」の発想といえる。そしてそれは投資の根拠を「北朝鮮では大きな変化が起きている。その子(金正恩北朝鮮労働党第一書記)が驚くべき変化を作りだしている」とするこのたびの発言とはつながらない。凡人の筆者には正反対の「投資の根拠」と思えるのだが・・・。
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