[相川俊英]【三重県松阪市、市議会解散リコール騒動】〜二元代表制で生まれた矛盾、解消なるか?〜
Japan In-depth / 2015年5月16日 23時16分
国政と違って地方自治は二元代表制が採用されている。国会議員が自分たちの中から内閣総理大臣を選出する国政とは異なり、地方自治体の首長と議会(議員)はそれぞれ選挙で有権者によって選ばれる。そのため地方議会には本来、与党野党はなく、地方議員も皆、首長(執行部)に対して是々非々の姿勢で臨むものだと教えられてきた。
しかし、実態はそうではない。首長選挙となると、議会内の各党各会派がしっかり手を結び、同じ候補を相乗りで擁立するのが一般的だ。議会内の圧倒的多数派が首長を送り込み、支えることが当たり前となっている。首長と議会が一体化している自治体が多く、なかにはオール与党体制が構築されているところもある。
だが、議会内多数派が擁立した候補を打ち破って首長になるケースもなくはない。いわゆる番狂わせだ。有権者の選ぶ基準や候補の見方などが、首長選と議員選では同じではないからだ。また、選挙が同日でない場合はそれも要因のひとつとなる。もちろん、掲げる政策や候補者に魅力あってこその番狂わせだ。
本命候補を破ってポストに就任した首長は、多数野党、ないしはオール野党体制と対峙することになる。待ち構えているのは、議会との対立だ。ともに有権者から選ばれたうえでの「ねじれ現象」である。
もっとも、選挙の番狂わせによって生まれた首長と議会の対立は、抜き差しならぬ事態にまで発展することはそれほどない。首長側が選挙で掲げた公約の旗などをあっさりおろし、議会の軍門に下ってしまうからだ。
意外に思うかもしれないが、議決機関の議会の力はそれほどまで強い。首長側は議案を議会に否決されてしまったら、グウの音も出ない。議会側は新たなものを創り出す力はないが(本来はある)、いろんな取組をストップさせる強大な力を持っている。
議論を積み重ねたうえでの否決なら別に問題なしだが、選挙の遺恨などから何でもノーとはねつけてしまいがちだ。新人首長はそうした議会の強硬さに恐れをなして早々に白旗をこっそり上げてしまいがちだ。議会の反対や抵抗に屈せず公約実現に奮闘し続ける首長の場合にのみ、二元の抜き差しならぬ対立となる。
そんな事態に陥った場合、本来ならば、有権者にその是非の判断を仰いで打開を図るべきだ。二元ともに有権者が選んだものであるからだ。しかし、首長に議会を解散する権限はなく、首長を不信任できる議会は解散を嫌って伝家の宝刀を抜かない。結局、二元の対立を解きほぐす術がなく、行政運営が停滞することになる。
三重県松阪市が今まさにこの状態にある。各党各会派相乗りの候補を破った松阪市の山中光茂市長は、現在2期目(任期は2017年2月まで)。情報公開を徹底し、市民との直接対話を重ねて政策決定している。こうした新しい自治の手法にオール野党(是々非々の議員もいる)の議会(任期は2017年7月まで)は激しく反発し、市長提案の否決を繰り返している。このため山中市長は今年3月、「古い体質が残る今の議会では執行部責任を果たせない。6月議会終了後に辞職する」と表明した。
しかし、山中市長の苦渋の決断に納得いかない市民が多く、「市議会改革リコール市民の会」を結成。市議会解散(リコール)の直接請求に乗り出すことを決めている。5月18日に「キックオフ集会」を開き、その後、議会リコールの署名集めを開始するという。議会リコール是非を問う住民投票の実施に必要な署名数は、約4万6000人分。2元の抜き差しならぬ対立を生み出した責任は、はたしてどこにあるのだろうか。
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