[相川俊英]【市民3割が関心を持ち続ければ現状は変わる】~大阪都構想住民投票を終えて~
Japan In-depth / 2015年5月21日 11時3分
知事選とのダブルとなった3年半前の大阪市長選で、橋下徹氏は「大阪都構想」の実現を掲げて当選した。現職市長との一騎打ちとなった選挙戦は今回の住民投票と同様、燃え上がるような激戦となった。相手陣営に自民党と民主党、共産党などが結集し、「反ハシズム統一戦線」の誕生とまで言われた。各党の各支持団体が組織の総力を挙げて選挙活動を展開した。
だが、反都構想で結集した彼らは現状打開策を提示せず、ひたすら「大阪市を守れ!」と声を張り上げた。こうして市長選の争点は大阪市の現状をいかにして変えるかではなく、現状を守るか否かに矮小化していった。結果は都構想の橋下氏が約75万票、反都構想の現職市長が約52万票となった。
着目すべきはその投票率だった。市民の関心が高まり、約61%を記録した。大阪市長選としては40年ぶりに5割を超えた(2007年の市長選は約44%)のだ。大阪市民の3人に2人近くが投票場に足を運んだことになった。そのこと自体が大阪市では画期的であり、驚異的なことだった。
なにしろ大阪市は市長選や市議選での低投票率が常態化していた。市長選となると、助役出身(副市長)、各党相乗り、無風選挙が恒例となっていて、市民の3人に1人しか選挙にいかない異常な状態が続いていた。市民が市政に関心を持たず(持てず)にいたのである。市政は必ず投票に行く3人の中の1人に顔を向けたものになり、税金が特定の組織や団体、市民を対象に使われるようになっていった。そうした恩恵に浴していた人たちが市政の現状を変えるべきと思うはずもない。
今回の大阪都構想の是非を問う住民投票も投票率は高く、約67%にも達した。大阪市民の3人に2人が意思表示したことになる。わずか1万741票差で都構想への反対が多数となり、都構想は退けられた。
住民投票の結果から浮かび上がるのは、大阪市民が3つに大別できることだ。3人のうち1人は行政や政治に完全に無関心、1人は現状維持派、そしてもう1人が抜本改革派である。この比率は、おそらく、大阪市だけではなく日本全体に共通するものだと考える。
ではなぜ、3年半前の市長選で勝利した橋下維新が今回惜敗したのか。双方の票数の増減をみると、都構想側が75万813票から69万4844票と5万5969票の目減りとなったのに対し、反都構想側は52万2641票から70万5585票と18万2944票も増加した。大阪都構想の中身の議論が進み、疑問や不安が広がったからだろうか。
もちろん、そうした面もあるだろうが、抜本改革が現実化しそうになり、躊躇する人が出て来たものと推測される。2011年の市長選で「大阪市を守れ」と叫んだ反対派が、今回は大阪市が政令市でなくなると「行政サービスが低下する」と訴えた。これが効いたのではないか。特に敬老パスなどの優遇措置を享受している高齢者である。一度手にしたメリットは手放したくないと思うからだ。
大阪市の住民投票の結果は、現行の行政システムを抜本改革することの難しさを如実に示した。しかし、これまで政治や行政に背を向けていた大阪市民の3人のうちの1人が、今後も関心を持続し続けることになれば、現状を変える大きな力になることは間違いない。
「大阪都構想」を掲げ、言葉だけでなくその実現に向けて果敢に挑戦した橋下市長らの奮闘の意義は、大きい。政治家が本来、果たすべき役割とはこういうことなのではないか。
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