[岩田太郎]【戦前日本と現代中国の「アジア人のためのアジア」】~米中もし戦わば 3~
Japan In-depth / 2015年6月3日 11時0分
近海においてグローバルなルールや国際法は適用されないと主張し、自らがルールを決めるという「例外主義」「接近阻止・領域拒否」「防空識別圏は領空と同じ」などの概念などが、それに当たる。戦前・戦中の一部日本人法学者も普遍的な国際法の適用を否定し、新たな地域法である「共栄圏国際法」を提唱する一方、アジア各国の主権を否定する「国境を超越した統一法」が必要だと主張した。また、「民族」という概念で、「アジア人のためのアジア」を正当化した。
今、中国は戦前日本と同様、西洋的・普遍的価値の否定の論拠に歴史的な「民族」というコンセプトを用いている。習政権は「中華民族の偉大な復興という、中国の夢」という標語で、中国を世界の歴史の中心、歴史解釈の権威、そして歴史の創造者と位置づけ始めている。国際法の解釈に対抗し、過去に何族であれ「中国人」が影響を及ぼした全ての領域が中国のものとする理論は、その認識から出ている。中国にとっての「アジア」はすでに国際法的概念・地理的制約を超越し、民族的な拡張の道具になっている。
翻って、戦前日本や現代中国の「アジア人のためのアジア」は両方とも経済面や政治面での地域的向上の具体像が乏しく、「中心的民族」である日本人や漢人の道徳的・文化的優位性も怪しいもので、説得力がない。共栄圏や共同体の建設には、アジア全体での人心掌握が不可欠だが、まずその段階で失敗しているのだ。こうしたなか、対日戦で自国を「アジアの解放者」と位置付けることに成功した米国が、アジアで民心掌握できるかが、米中対決の帰結を決めるだろう。
(【米中戦争は不可避か~中国の自己実現預言の自縛~】~米中もし戦わば4~に続く。
この記事は、
【佐藤元首相と安倍首相の「日本は巻き込まれない」】~米中もし戦わば 1~
【日本国民を巻き込ませない政策を担保する方法】~米中もし戦わば 2~
の続きです)
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