[西村健]【大阪都構想から考える東京都のあり方】 ~東京都長期ビジョンを読み解く!<特別編> その26 〜
Japan In-depth / 2015年6月13日 18時0分
「大阪都構想で大阪が変わる」「大阪の政治を取り戻す」「本当に納税者のためになる大阪政府を作っていきます」
橋下徹大阪市長が熱弁をふるったものの、大阪都構想の是非を問う住民投票において、大阪都構想は否決された。
その結果を受けて、地域間対立、世代対立などの考察が多くのメディアでされている。様々な識者が様々な発言をしているが、目立ったのは「70歳以上の高齢者が反対した」といったシルバーデモクラシー論である。
世代別に見るとその年代に反対派が相対的に多かったことは事実である。しかし、70歳代以上の高齢者の中にも賛成票を投じた人も数多く存在している。あくまで年代での差は相対的なものだ。
人は投票するにあたって色々な要素を検討する。中には「感情的に嫌いだから」「高齢者の優遇がなくなりそうだから」「友達から依頼されたから」というたった1つの理由で反対した人もいるだろう。しかし、そういった人でさえ、メディアや友人など無意識レベルで多くの影響を受けている。
・都構想は正しいか?
・自分にどんなメリットがあるか?
・メリットとデメリットは?自分の将来の暮らしへの影響は?
・今後の大阪の発展にどのように貢献するのか?実現可能か?
・これまでの橋下市長の取り組みをどう評価するか?
・橋下市長の改革は今後の大阪にも必要か?
・橋下市長の行動哲学、信条、思想が好ましいか?
との検討をもとに、それぞれの立場・利害を勘案して最終的に票を投じている。この検討プロセスを一瞬でやるか、じっくりするか、それぞれどこに重点をおくか・置かないか、検討の深さ・浅さなどの度合いは人それぞれであるが。
メディアや説明会でその主張を聞き、理解し、理解した範囲で考え、知り合いと意見を交換し、また考え、結論を出す。最初に結論を決めてから、いろいろな要素を考えていくかもしれない。その思考方法は人それぞれである。
つまり、「高齢者層のために負けた」といったメディアが提供したあまりに単純な解釈は、我々が複雑な要因分析を放棄し、なんとなくわかったつもりになる(そして、安心する)ための助け舟にしか過ぎない。
ついで多いのは「大阪は終わった」という意見だ。政治がどうあろうと地域住民は生きていく。少しその風景が変わるだけだ。行政の無駄やマネジメントの改革が進んだとしても、それが経済活性化につながるという論理には無理がある。そう、我々は経済に対する行政の影響を過大に見積もりすぎなのだ。われわれ1人1人が生産性をあげ、付加価値をあげ、相手のニーズを満たし、そうしたことが積み重ならない限り経済は向上しない。
経済政策の予算を執行、規制緩和などで市場のルール変更、補助金などで産業育成のためのサポートなど、経済社会で行政が及ぼせる影響力は限定されている。
政府の役割は税金を再配分することが主な仕事だ。そして、法律や条例など行政法のもとで執行する行政は法律の下でしか政策・施策・事業に取り組むことができない。例えば「中学生が電気自動車を購入できるよう1人100万円を補助する」という政策は実行できない。
我々首都圏に住む人々は今回の意義を見誤っていないか。橋下氏を通じた改革の実績や市民協働の「分厚さ」をどこまで知っているのだろうか。大阪都構想をネタとして消費することなく、今回のことをきっかけに東京都のあり方を考えていかないか。
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