[林信吾]【“ユーロ離脱辞さず”こそ、国民はNO?】~ギリシャ危機の真実 2~
Japan In-depth / 2015年7月3日 7時0分
「同情するなら金をくれ!」若い読者はご存じないかも知れないが、これは1994年に安達祐実が主演した『家なき子』というドラマの決めゼリフで、同年の流行語大賞も受賞している。前回報告したように、EUによる金融支援が6月30日をもって失効し、もはやデフォルトが避けられない見通しのギリシャだが(現時点では延滞扱い)、中国が支援に乗り出すかも知れないとか、さらなる複雑な状況が生まれてきてもいる。
よく知られるように、EUがギリシャに対してずっと求めてきているのは、年金支給額のカットや増税を軸とする緊縮財政への移行だが、ギリシャ国民は強く反発し、現在の急進左派政権成立にも結びついたわけだ。その主張のトンデモぶりもまた、前回報告した通りだが、ギリシャ国民の多くが、年金カットは受け容れがたい、と考えることころまでは、筆者も同情の余地なしとはしない。
『21世紀の資本』(みすず書房)の著者トマ・ピケティは、同書の中で、政府債務を圧縮するための緊縮財政は「最悪の手段」だと、一言で斬り捨てている。
たしかに、年金生活者をはじめとする庶民の購買力を奪い、経済のかろうじて回っている部分までが壊滅的な打撃を受けるリスクは否定できない。しかしながら、ギリシャの財政赤字について見る限り、年金生活者に同情して金を出し続けてよいのか、と言いたくなる面もあるのだ。
この国の戦後史は結構複雑だが、今日の経済危機に直結する問題を掘り下げて行くと、1980年代に、左派の全ギリシャ社会主義運動が政権を奪取した事にはじまる。彼らは社会民主主義路線をより強固なものとすべく、支持者の多くを公務員として採用した。こうして、日本の官公労に相当する、公務員の労組が政権の強力な支持基盤となったのだが、同時に、全就労人口の25%近くが公務員、もしくは国営企業の従業員という、きわめて不自然な経済構造を産み出してしまった。前回、ギリシャの財政赤字は政治の構造的欠陥が原因と述べたのは、具体的にはこのことを指している。
別の言い方をすれば、現在のギリシャで年金を受け取っている人のうち、難しい就活に勝ち残って公務員となり、定年まで真面目に勤め上げて、ようやく年金生活に入ったと言う人は、実は少数派なのである。同情の余地と言っても、程度問題ではあるまいか。
また、行政機構がこのような有様であったため、民間の納税意志もくじかれ、一説によれば(正確なデータなど期待すべくもないが)GDPのおよそ20%にものぼる闇経済が動いているという。歯医者までが、領収書が不要なら少し安くする、などと持ちかけてきた、といった報告もなされている。
とどのつまり、まともに税金が集まらないシステムを放置したまま、ちょっとやそっと増税しても無駄なことなので、年金カットと公務員のリストラを求めるEU側の要求は、控えめに言っても、やむを得ない処置だ。今月5日には、EUの要求する緊縮財政案を受け容れるか否か、国民投票が実施される。
チグラス首相は、反対票を投じることを呼びかけているが、すでに国民の70%前後が、ユーロからの離脱だけは避けるべき、との考えを明らかにしている。
むしろ現政権の、これ以上の緊縮財政に応じるくらいならユーロ離脱も辞さぬ、といった強硬姿勢の方こそ、国民からNOを突きつけられる可能性がきわめて高い。その結果、政権交代を実現した上でなら、あらためて「再建策」の協議も可能だ。落としどころは、おそらくそんなところだろう。
(この記事は【ギリシャ、困った時の歴史認識】~ギリシャ危機の真実1~ の続きです。)
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