[須藤史奈子]【全編iPhoneで撮影された映画が凄すぎる】~トランスジェンダー2人が主人公 “Tangerine” ~
Japan In-depth / 2015年7月12日 7時44分
この映画の面白いところは脚本の作り方にもある。まず、ロケーションを娼婦が多く出没することで有名なロスの一角と決め、そこを共同執筆者と共にひたすら歩き回って協力者を集めた。その結果、出会ったのが後に主人公となるマイヤ・テイラーとキタナ・キキ・ロドリゲス。ストーリーは二人が体験したことや見聞きしたことをベースに、一緒に作っていったという。これは、同監督が「プリンス・オブ・ブロードウェイ(2008年公開)」で、ニューヨークで違法コピー商品を密売し生計をたてるアフリカ系移民の男性を軸に物語を組み立てていった時からの手法だ。
トランスジェンダーという複雑なテーマを扱うにあたって、ベイカー監督は当初シリアスな作品にすることを考えていたそうだ。「でも、マイヤが協力する条件として言ったんだ、『必ずリアルな現実を伝えてほしい。それがいかに残酷なものであっても。それから、私たちが見て楽しいと思えるものにして欲しい。いつも厳しい現実と戦いながら生活しているから、それを忘れて思いっきり笑えるような、そんな作品にして欲しいの。』それを聞いて、考えが一変したんだ。」
大量生産・大量消費の時代を経て、映画に限らず全てのものが小規模に臨機応変に作られる時代がやってきている。メジャーと呼ばれるものとマイナーと呼ばれるものの垣根がどんどん取り払われていく中で、米国においては「良いもの」を見極めて育てていく土壌が培われていると思う。最近の意識調査(注1)で、アメリカン・ドリームが“alive and well (今も健在だ)”と答えた人がたった4分の1だったという悲しい状況ではあるが、ベイカー監督のように逆境をプラスへと革新を探求し続ける人がいて、それに光があたるシステムがある限り、これからもアメリカから次々とエキサイティングなものが生み出されていくだろう。
(注1)米アトランティック誌がコンサルタント会社ペン・シェーン・バーランドに依頼して実施された世論調査。アメリカ在住のおよそ2000人を対象に今年6月に実施された。
※トップ画像:写真上右から:ショーン・ベイカー監督、俳優犬Boonee、Shih-Ching Tsou(プロデューサー)、Radium Cheung(撮影)、 Chris Bergoch(シナリオ共同執筆)、James Ransone(助演)、下段:Karren Karagulian(助演)
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