[千野境子]【国際政治の観点から安保法制論議を】~国際政治学者12人、参院各会派に要望書提出~
Japan In-depth / 2015年8月8日 23時0分
せっかく会期を延長したのに国会の安保法制論議がなかなか深まらない。礒崎陽輔首相補佐官の一件にしても、「法的安定性なんて関係ない」発言はいかにも軽率かつ傲慢で不適切だが、法案そっちのけでここぞとばかりに辞任や更迭を再三迫る野党を見ていると、本音は安保論議をしたくないのではないかと勘繰りたくもなってしまう。
国民が国会に期待するのは、世論調査でいまも「良く分からない」が高率を占める法案について、与野党立場の違いはあれ、法案への疑問を質し、瑕疵があれば正すなど、日本の安全をより確かなものにしていくための白熱した議論のはずである。
去る3日に国際政治学者12人が「安全保障法制を考える有志の会」(世話人=白石隆・政策研究大学院学長)の名前で、参議院各会派に対して安保関連法案審議で日本の安全保障そのものについて、もっと議論を深めるよう要望書を提出したのはもっともなことだった。
有志には五百籏頭真・前防衛大学校校長、久保文明・東京大学大学院教授、添谷芳秀・慶応義塾大学教授、高原明生・東京大学大学院教授など日本を代表する国際政治学者たちが並ぶ。
考えてみれば、そもそも安保法制の論議なのに、国会やメディアを席巻したのが国際政治とはあまり縁のなさそうな憲法学者たちで、議論も違憲・合憲論に終始したのは、ヘンな話だった。メディアに登場する反対の人々も「憲法学者たちが法案は違憲と言っている」と判で押したように語っていた。
もちろん合憲か違憲かの論議も大切で、あってよい。しかし違憲論の先生たちの議論はともすると、冷戦とその終焉、ソ連の崩壊、北朝鮮のミサイル・核開発、中国の台頭といった戦後七〇年の国際情勢の変化がスッポリ抜け落ちていて、とにかく日本国憲法ありき。まるで施行(1947年5月3日)の時代にいまも生きているような錯覚に陥る。
例えれば、服を子供の成長に合わせるのでなく、服に体を合わせなさい、大事な服なのだから窮屈でも我慢して着ていなさいと言っているのに等しい。どんなに気に入った服でもサイズが合わなければ、リフォームするか新調するものだ。
メディアも時間が停止したような反対論に覆われている。「徴兵制」や「戦争をする国」論は感情的な言葉だけが踊り、実態がない。四半世紀近く前、自衛隊がカンボジアに初めて国連PKOで派遣される時も、「戦争への道、再び」と反対したメディアがあったことを思えば、「戦争」を持ち出すのは反対論の定型なのかもしれない。
国際社会がいま、日本を注視するのは戦後70年の安倍談話だけではない。安保法制論議が、自国はもとより国際社会に対しても応分の責任を果たす、成熟し信頼される国に相応しい内容かどうかも問われているはずだ。それにしては論議はあまりに内向きで、自己中心的平和主義に陥っていると感じる。
有志の会の要望書は参議院で議論してほしい6項目の論点を具体的に挙げている。「抑止力」をどう考えるか。日米安全保障体制における日米の役割分担は。台頭する中国への対応は。シーレーンの安全確保のためにすべきことはー等などである。いずれも重要な論点であり、丁寧かつ真剣に議論をしたら、時間が足りないくらいかもしれない。
議員たちの任務はこれらについての真っ当な議論であって、議場で反対デモよろしくプラカードを掲げることではない。このようなテレビ放映を意識した、ポピュリズム的行動をためらわない政治家の知性の劣化にも幻滅させられる。
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