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[瀬尾温知]【手塚治虫がアニメ製作を決意した日】~戦時下のプロパガンダ映画の秘密 2~

Japan In-depth / 2015年8月18日 11時0分

幻となっていたフィルムが約40年後に発見されたあと、日本のアニメ史を語るうえで貴重な映画は、松竹系の映画館で公開された。12歳の少年だったわたしは、家族に連れられて銀座まで観に行った。そのときのことで、鮮明に覚えていることがある。上映後に舞台挨拶をした瀬尾監督が檀上を下り、客席に歩いてきたときのことだ。わたしの父が立ち上がり、監督の前に歩み出た。「ご無沙汰しております」と、父は礼儀正しく頭を下げ、何年ぶり、何十年ぶりかに会う父親に言葉をかけた。そしてわたしの手を引いて、息子です、と紹介した。わたしは初めて目にする祖父に名を名乗り、母に促されるままに握手を交わした。それが最初で最後の祖父との時間だった。

緑地にある川崎市市民ミュージアムから外に出ると、蝉の声が降り注いでいた。上映が終わったあとに、ひとりの老婦人と話をした。「私はね、アニメってそんなに好きじゃなくて、あんまり見ないんですけど、とってもおもしろかった。絵がかわいくてね。まん丸の御顔をした桃太郎さんが素敵だったわ」。老婦人は遠くの空に目をやりながら、和やかな表情で語ってくれた。海軍省に戦意高揚が目的と命じられながらも、瀬尾光世が届けたかった夢と希望。そのメッセージは、70年が過ぎた今、終戦当時は少女だった老婦人の心に響いていた。

終戦70年、二度と同じ過ちを繰り返さないように、我々は戦争の話を継承していく必要がある。そのためには、異なる世代の者が会話することなのだが、その対話が減少傾向にある現代社会のライフスタイルに懸念を感じている。

※1)2014年6月から「桃太郎 海の神兵」はDVD版が販売されている。

(この記事は【日本初長編アニメは戦意高揚が目的】~戦時下のプロパガンダ映画の秘密 1~ の続きです。本シリーズ全2回)

 

※トップ画像:瀬尾光世と手塚治虫(出典 1987年/TBS 土曜ロードショー特別企画)

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