[植木安弘]【非常任理事国日本に選挙権あり】~次期国連事務総長選の行方 その2~
Japan In-depth / 2015年8月26日 11時0分
早々と次期事務総長選への立候補を表明したのは東欧に位置するスロベニアの元大統領ダニロ・チュルクだ。2014年1月にスロベニア政府によって指名された。チュルクは旧ユーゴスラビアから独立したスロベニアで外交官を務め、1990年代に国連大使を務めた後、国連政務局の事務次長補となった。潘基文が事務総長に選出された後、政務局長のポストを狙ったとされたが、支持された常任理事国への配慮から政務局長のポストは米国に与えられたため、翌年スロベニアの大統領選に出馬し当選した。二期目を目指した2012年の選挙で落選したため、その後リュブリャナ大学で教鞭を取っているが、国連時代から次期事務総長への意欲を持っていた。
次に候補となったのが、ブルガリア出身で、現在ユネスコ(国際教育科学文化機関)の事務局長をしているイリーナ・ブコヴァだ。ブルガリア政府が2014年6月に支持を表明している。ブコヴァは旧ソ連と米国で教育を受け、ブルガリアの外交官を務めた後、政界入りし、外務大臣なども務めている。2009年にユネスコ事務局長に選出され、東欧初の国際機関の長となった。
チュルクもブコヴァも東欧出身ということもあり、次の地理的輪番が東欧ということが念頭にあっての出馬表明だったと言える。東欧出身で事務総長選に関心のある人は他にもおり、セルビアの外相や国連総会議長を務めたヴュク・ジェレミッチやクロアチアの副首相兼外相のヴェスナ・プーシッチ(女性)などがいる。この他にもハンガリー、ローマニア、リトアニア、ブルガリア、スロバキアなどの東欧諸国からの大統領や外相経験者も関心があると言われている。
地理的輪番で東欧が次との見解がある一方、次はヨーロッパ全体との見解もあり、その意味では国連の地域的グループの「西欧と他の諸国」(WEOS)ということもでき、そうなるとオーストラリアやニュージーランドも事務総長選の候補を出す資格が出てくる。その中で、公式な表明を出している訳ではないがニュージーランドの元首相で現在国連開発計画 (UNDP) 事務局長のヘレン・クラークが2016年に安保理に席をおく国々を積極的に訪問していることもあり、立候補が有力視されている。
女性候補ということになると地理的輪番制を崩すことになり、一気に候補者が世界各国から集まる可能性がある。ブコヴァとクラーク以外にもチリの元大統領で UN Women という比較的新しい国連機関の事務局長を務めた経験のあるミシェル・バチェレやEC委員会の副議長でブルガリア出身のクリスチーナ・ジョルジエヴァなどの名前も挙がっている。
国連憲章下、事務総長選出には安保理の勧告が先ず必要なため、安保理、特に常任理事国の支持が必要であることには変わりはない。ただ、安保理で決議が採択されるためには15ヵ国の理事国のうち9ヵ国の賛成投票が必要なため、非常任理事国の支持も大切となる。日本は今年の秋の安保理選挙で理事国当選が事実上決まっており、2016年から2年に渡り理事国を務めることになる。従って、日本は前回の事務総長選に続き新たな事務総長を選出する機会を与えられる。日本にとってもこれからの国連外交を担っていく上で大事な選挙である。日本の選択も注目される。
(この記事は【初の女性事務総長誕生か?】~国連事務総長選の行方 その1~ の続きです。本シリーズ全2回)
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