[朴斗鎮]【避けられない金正恩の権威低下】~地雷挑発に対する遺憾表明で~
Japan In-depth / 2015年8月27日 18時0分
8月4日、非武装地帯(DMZ)の韓国側で北朝鮮軍が埋めた地雷が爆発し、韓国兵2人が重傷を負った。この事件を受けて始まった南北の軍事対決は、韓国側の勝利に終わったようだ。
地雷挑発の対抗措置として韓国が11年ぶりに再開した北朝鮮向け「拡声器放送」に対して、金正恩第1書記は20日午後5時に「48時間以内の中断」を求め、「朝鮮労働党中央軍事委員会緊急拡大会議」を召集して22年ぶりの「準戦時体制」を宣布した。こうして一触即発の危機を演出したが、21日には南北高位級会談を韓国側に提案するなど早々とチキンレースから降りていた。
当初北朝鮮側は、労働党書記で統一戦線部長の金養建を首席代表として送り込もうとしていたが、韓国側が朝鮮人民軍総政治局長の黄炳瑞を逆指名するとそれに応じた。協議場所でも板門店の北朝鮮施設「統一閣」ではなく、韓国側の「平和の家」とする提案を受け入れた。そればかりではない。高官協議の開催を発表する際、北朝鮮は、韓国を「傀儡(かいらい)」「南朝鮮」と呼ばずに「大韓民国」と正式な国名で呼称した。この時点で南北会談の結末はほぼ見えていたと言える。
22日午後6時30分から25日午前0時55分まで断続的に続けられた南北高位級会談(韓国側代表・金寛鎮国家安保室長、次席代表・洪容杓統一部長官。北朝鮮側代表・黄炳瑞人民軍総政治局長、次席代表・金養建朝鮮労働党書記兼統一戦線部長)は、北朝鮮側の「遺憾」表明と韓国側の「拡声器放送中断」など6項目で合意された。
この会談結果に対する北朝鮮ウォッチャーの評価は分かれている。たとえばデイリーNKジャパン編集長の高英起氏は、「私はハッキリと、北朝鮮の金正恩氏の“敗北”であると言い切っておきたい」と語り、コリアレポート編集長辺信一氏はより明確に「南北の綱引きは韓国に軍配が上がった。韓国の完勝と言ってもいい」と述べた。これに対し関西学院大学教授の平岩俊司氏は「玉虫色決着で南北ともに失点なし」と語った。
だが、今回の南北高位級会談は、その経緯や合意文から見て北朝鮮が「謝罪」したのと考えるのが自然である。外交慣例から見ても「遺憾」は「謝罪」と理解するのが通例だ。北朝鮮では最高指導者の権威を守るために公式文では「謝罪」という言葉は使わない。これまでのケースを見てもそうだ。「遺憾」が「謝罪」なのである。
1976年に非武装地帯の「共同警備区域(JSA)」で起きた「ポプラ事件(視界を遮るポプラの木を伐採しようとした米工兵将校2名を集団で押し寄せ北朝鮮兵が殺害した事件)」の時もそうだった。臨戦態勢を敷いた米韓軍に金日成が「遺憾の意」を表明したのである。また1996年の「江陵北朝鮮潜水艦侵入事件」では、朝鮮中央通信が「深い遺憾」を表明して事態を収拾した。これらのいずれも「遺憾」が「謝罪」を意味するものであった。
今後北朝鮮は、金正恩の権威を守るために様々な詭弁を弄するだろう。すでに黄炳瑞は国内向け説明で「韓国に教訓を与えた」などと説明している。しかし、そのような欺瞞宣伝は今の北朝鮮国民にすら通用しないであろう。未熟な挑発行動で「敗北」を国内外にさらした金正恩第1書記の権威は、今後ますます低下するに違いない。
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