[鈴木潤]【「立憲主義違反」の主張のおかしさ 1】~単なるレッテル貼りが目的~
Japan In-depth / 2015年9月16日 11時0分
前回の投稿の後、安全保障関連法案は衆議院を通過し、参議院での採決も迫りつつあります。この間、「集団的自衛権の限定容認が合憲かどうか」についての議論は出尽くしたと言っていいでしょう。前回指摘したように、政府案の我が国を守るための限定的な集団的自衛権であれば、砂川判決によってサポートされているとみることは十分可能です。実際にも、政府は、合憲性の説明をする際に「他国を守るための集団的自衛権」ではなく「自国を守るための集団的自衛権」であることを強調してきており、このように政府が合憲の理由について合理的な説明を行っている以上、もはやこの論点についての結論は、将来の裁判所の判断に委ねれば十分です。
このような中、政府は法案の必要性について以前よりも踏み込んだ説明を行っていること、外交や安全保障の優れた実務家が国会で安保法案への強い賛成を述べていること、200時間もの審議を経ても、戦争抑止力を強化する上で政府提出法案よりも更に有効な安全保障政策上の案が出てこないことを考えれば、国会は速やかに政府提出の安保法案を可決するべきです。私としても、この連載の中で集団的自衛権の合憲性についてこれ以上取り扱うことに大きな意味はないと考えていますが、次の点についてだけ若干の補足をしておきたいと思います。
安保法案の反対論が、繰り返し主張するのが、「一内閣が憲法解釈を変更して、集団的自衛権の行使を認めることは立憲主義に反する」という議論です。そもそも、「解釈変更が立憲主義違反」とはどういう意味なのでしょうか?この言葉自体のあいまいさを反映してなのか、反対論の理解も大きく二つに分かれているようです。
まず、一つ目は、「憲法は国家権力を拘束するためのものである(立憲主義)。国が集団的自衛権を行使することも、憲法9条の下で禁止されてきた。したがって、国が集団的自衛権を行使できるようにするためには、憲法9条を改正しなければならない。それにも関わらず、国の側から、憲法解釈を変更することによって集団的自衛権の行使を認めることは、立憲主義に反し、許されない」というものです。
しかし、これは、結局のところ、「集団的自衛権の行使は憲法9条に反する」という主張を言い換えているにすぎません。この主張をよく見てみると、「集団的自衛権の行使が憲法9条違反であること」が「解釈変更が立憲主義違反であること」の大前提になっていることがわかります。つまり、「立憲主義違反」の主張は、「集団的自衛権の行使が憲法9条違反」との主張に依存する関係にあり、独立しては存在しえないのです(集団的自衛権の行使は憲法9条違反だからこそ、集団的自衛権の行使を認める解釈への変更は立憲主義違反ということになり、集団的自衛権の行使が憲法9条に反しないのであれば、集団的自衛権の行使を認める解釈への変更も立憲主義に反しないことになります)。
このように、「立憲主義違反」という言葉には一見インパクトがあるようですが、実際には「集団的自衛権の行使は憲法9条に違反する」という主張の言い換えに過ぎず、実質的な反論とは言えません。「戦争法案反対」などと同じく、「立憲主義違反」というレッテル貼り自体を目的とする主張にすぎないといえます。
さて、立憲主義違反についてのもう一つの主張は、「内閣による憲法解釈の変更が一切許されないわけではないが、憲法解釈の変更は従来の解釈との整合性が図られた論理的に導きうる範囲に限られ、その範囲を超えた解釈変更は、立憲主義に反する」というものです。字数が尽きてしまいましたので、この点については、次回へ持ち越したいと思います。
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