【シリア攻撃で見えたロシアの最新エアパワー】~拡大するその軍事的プレゼンス~
Japan In-depth / 2015年10月9日 11時0分
ロシアの危機感
湾岸戦争以降、ロシアは米国による巡航ミサイルを含めた精密攻撃能力の威力を目の当たりにし、2012年にプーチン大統領が公表した国防政策論文でも「将来は精密誘導兵器の集中使用が戦争の趨勢を決するようになる」との見通しを示していた。
こうした背景の下でロシア空軍は無誘導爆弾の調達を一時停止し、精密誘導兵器の大規模調達に踏み切ったほか、これらの運用能力を持つ近代的な対地攻撃機の整備を進めてきた。現在、シリアに展開しているSu-30SM多目的戦闘機やSu-34戦闘爆撃機はその一部である。また、同じくシリアに展開しているSu-25SMも旧式のSu-25を近代化改修して精密攻撃能力を向上させたタイプだ。
海軍では、新規に建造される水上艦艇や潜水艦にはカリブル-NKが標準的に搭載されるようになり、ソ連時代に建造された巡洋艦や原子力潜水艦も順次近代化改修を受けて同様の能力を獲得しつつある。なかでも世界の海洋に展開する能力を持った原子力艦艇は「非核抑止力」を担う存在と位置づけられ、まさに冷戦後の西側が実施してきたような、海上からの長距離攻撃プラットフォームとして活用される計画だ。
ただ、ロシアが特殊なのは、カスピ小艦隊の小型艦にまで巡航ミサイルを搭載している点である。ソ連海軍中興の祖と言われるセルゲイ・ゴルシコフ提督は、1970年代の著書ですでに巡航ミサイルのインパクトに着目し、このような新技術によって小型艦艇であっても戦略的な攻撃能力を持ちうると指摘していた。
実際、今回の攻撃では、ロシア海軍の中でもマイナーな存在と見なされていたカスピ小艦隊が遠く離れたシリアにまで戦略攻撃を行った訳で、カスピ海を拠点としてユーラシア大陸の深奥部に及ぶ長距離精密攻撃を行い得る能力が実証されたことになる。ロシアの戦略家たちはカスピ海という内海を抱えるという自国の地政学的特色を考慮して独自の長距離精密攻撃能力の運用構想を練ってきた筈で、カスピ小艦隊が最初のカリブル-NK運用部隊となったのも偶然ではあるまい。なお、ロシア海軍は2020年までにカスピ小艦隊をさらに増強する計画である。
精密攻撃能力を支える多様なアセット
また、今回の攻撃は、こうした各種プラットフォームや精密攻撃兵器のみによって可能となったわけでもない。肝心の誘導手段となるGLONASSはソ連時代に一度、実用化寸前に至ったものの、ソ連崩壊後には財政難から軌道上の衛星群(常時24基を展開させておく必要がある)を維持しきれなくなり、2000年代初頭にはほとんど機能不全に陥っていた。
これに対してプーチン政権はGLONASSの最実用化を軍事面からも民生面からも最重要課題の一つとして位置づけ、宇宙予算の中でも特別の位置づけを与えて整備を進めてきた。この結果、2010年には軌道上に所定数の衛星を確保することに成功し、GLONASSの稼働が始まっている。
このほかにも目標情報の選定には偵察衛星が必要であるし、巡航ミサイルが地形を縫って飛ぶには測量衛星で精密なデジタルマップを作成する必要がある。巡航ミサイル攻撃が可能になった背景には、こうした宇宙作戦能力の回復も大きく影響していたと考えられる。
まとめるならば、今回のシリア空爆は、長年にわたるロシアの軍事力整備が結実したものと見ることができよう。ロシアは経済危機下でも軍事力の近代化を継続する意向を示しており、その軍事的プレゼンスは今後、さらに無視できない存在となっていくことが予想される。
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