[渡辺敦子]【なぜ、日本は中国の敵となり得るのか】~看過できない日本の「華夷変態」~
Japan In-depth / 2015年11月6日 23時0分
習近平国家主席の汚職撲滅運動が依然進んでいるようである。最近では高官の不審死報道もあり、常に政権の先行きが心配されている割には、まだ大丈夫そうである。
幹部、軍にもおよぶこれまで誰も成さなかった「大掃除」を、習主席はなぜできるのだろう。英国に住む中国人ジャーナリストMに尋ねると、「彼は父親から受け継いだ、強い内部ネットワークをもっているから」という、ある種逆説的とも思われる答えが返ってきた。つまり「信用されているから裏切ることができる」ということになる。
この「信用」と「ネットワーク」は、確かに中国社会において大きな意味をもっているようである。前回、中国の「華夷」と呼ばれる伝統的な辺縁—中心的な地理秩序体系について述べた。この体系は近代に至るまで、緩やかに日本を含む周辺域に広まって、アジア全体を形作ってきた国際関係である。やはりキーワードはある種の自主規制とネットワークである。
交通路としての海域を含んでいることが大きな特徴で、伝統的に海を「void(空白)」と見てきた欧州の認識とは好対照をなす。例の人工島問題もこの文脈で考えると違う意味が見えてきそうだが、さておき、この体系のなかなか愉快なところは、濱下武志によれば、周辺国にも「華」を名乗る余地を与えたシステムであったことだ。
つまり中心とはそもそも「天」の概念であるため、誰のものでもなく皆のものである、という理屈が可能になる。事実上の多元システムで、周辺国と中心との上下関係が逆転することを、「華夷変態」と呼ぶが、日清戦争以降の日本の中国に対する立場も、中国から見れば、一種の「華夷変態」であった。
周辺の小さな国々が「変態」することを、大国であり続けた中国はあまり気にしなかったであろう。元々シンボリックなシステムで、国境はないため、ネットワークが動いていればそれでよいわけだった。私が学ぶ大学の中国専門のとある教授によれば、周辺国との間には「formal equalityの概念はなく、informal equalityのみある」ということになる。
しかし欧州発の近代国家システムはむしろ、「formal equality、 informal inequality」の概念である。領土は国家の平等概念を支えるものだが、地理、資源、軍事、政治力の差は国家間に明らかな不平等を生んできた。
これが中国の伝統的な地理的秩序にどんな影響を与えただろうか。対日関係をみれば、元々「信用されているから裏切れる」ほど近い関係ではなかった日本の近代以降の「華夷変態」が、見過ごされるものでなくなってきたことだけは、間違いない。
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