[林信吾]【仏同時テロ:キリスト教国としての悩み】~ヨーロッパの移民・難民事情 特別編(上)~
Japan In-depth / 2015年11月15日 20時21分
ドイツのトルコ系移民の場合は、職や教育の機会を得ることが、信仰や伝統より大事だ、と割り切っている人が多く、こちらも移民問題は、もっぱら経済的な側面から、繰り返し論争の的となっている。移民排斥を訴える若者たちは、しばしばネオナチと呼ばれるが、「俺たちはナチじゃない。今のドイツのために闘っているんだ」と口を揃えて言う。
この点フランスは、いささか事情が異なるのである。フランスと聞いて、観光や芸術、ファッションのイメージがすぐに浮かぶという方々には、おそらく意外に思われるであろうが、この国は右から左まで、キリスト教を基礎とした政治思想を信奉する政治団体が数多く存在し、政権にも参加するほどなのだ。
たとえばEUの初代委員長ジャック・ドロールを輩出したCFTC(フランスキリスト教労働者同盟)は、カトリックの青年組織だが、社会党以上に左翼的だとまで言われ、その影響力たるや、彼らの協力なくして1980年代の社会党ミッテラン政権はあり得なかったほどである。事実ミッテランが、三顧の礼で選挙協力を求めた。
聖書に書かれていることが全て歴史的事実だと主張するファンダメンタリスト(キリスト教原理主義者)も、米国に次いで多いと言われる。右から左まで、と述べたのはそうした意味だ。
その彼らに共通するものは、イスラムに対する敵対感情で、たとえば女子生徒がスカーフで頭部を隠して公立校に通学するのを認めるか否かで裁判沙汰となるなど、深刻な社会的対立が、以前から散見されていた。このような事情をイスラム過激派の視点で見たならば、もともとフランス社会への憎悪を募らせていたとしても不思議はない。
いかなる理由があろうとも、市民を巻き込む無差別テロは正当化されない、という前提で、あえて一言述べるなら、今次のパリにおけるテロは、起きるべくして起きた。
次回はもう少し具体的に、新聞社襲撃事件の背景や、今次のテロが日本にもたらす影響について考察してみたい。
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