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[安倍宏行]【何故地上波テレビは海外ニュースを瞬時に伝えないのか?】~ネット時代のテレビの役割~

Japan In-depth / 2015年11月15日 23時2分

そんな状況下では、特番を編成する為の情報=コンテンツが集まらないだろう。2~3分の番組ならまだしも、1時間番組を埋めるとなると、様々な準備がいる。まず、キャスターが必要だ。それから、スタジオに専門家を呼ばなくてはならない。時間にもよるが電話をかけて局に来てもらうだけでも1時間以上はかかる。CGや模型なども同時に作る必要がある。事件が起きてすぐに特番、とはならないのはそういう背景があるからだ。

さて、2の「特番編成が容易ではない」とは、民放ならではの事情だ。基本放送収入、つまりCMを売って利益を得ている民放テレビ局は、通常編成をそう簡単に変えることが出来ない。報道局がまず「特番をやる!」と声を上げると、編成局の報道担当者を通じて営業局に話が伝わる。他のローカル局への説明も必要だ。そうして最終的に話がまとまって初めて特番編成となるのだ。その時の状況により、特番編成になるかどうかもわからない。仮に特番となっても報道局が要望しているより時間が短くなることもある。

これらの理由により、民放が海外の事件・事故に関して特番を編成するハードルがいかに高いかご理解いただけたと思う。電波という公共財を免許制で政府から与えられていることで生じる「報道する義務」と同時に、営利企業でもあることで無尽蔵に報道にお金をかけられないという、ジレンマを抱えているのだ。無論、日本人に大きな被害があった場合などは、特番のハードルはずっと低くなるだろう。

そして、今はネットの時代だ。テレビやラジオ、新聞で情報を得ていた時代はとっくに終わっている。ネットで情報を得ることは今や当たり前。特にSNSが急速に普及して来たここ数年は、人々が世界の情報を入手するスピードは日増しに速く、そして容易になっている。その気になれば世界中の誰よりも早く、テロの現場の情報にアクセスできる。ツイッターなら関連ハッシュタグで検索をかければ現地の情報などすぐ集まる。

そんな世界に生きている私たちが、テレビにネットの速報性を求めるのは無理がある。役割が違うのだ。特に地上波は、ネットより早く特番で現地の情報を伝えることはほぼ不可能だ。

ではどうするか。専門家による分析や見通しを視聴者に提供すればよい。仮に速報が出来なくとも、テロが起きた背景や様々な報道の多様な分析、加えて、シリアの内戦への各国の関与や難民受け入れが今後どうなるかなどの見通しを人々は知りたいはずだ。日本への影響なども重要な関心事だ。

テレビ局には、これまで蓄積してきた膨大なデータやアーカイブ、人材がある。それらを駆使した分析などを、自前のニュース・ウェブページで流せばよい。初動では、様々な海外メディアの情報を訳してどんどん流せばよい。英語や仏語がわからない人にとっては、テレビ局のキュレーションが働き信頼性が担保された貴重な情報源となろう。フジテレビなどは、24時間ネット放送局の“ホウドウキョク”があり、他局より有利なはずだ。使わない手はない。民放テレビは、地上波でのニュースとは別に、自前のネット空間で上記のようなニュースを流し続けることで、失った信頼を取り戻すしかない。

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