[古森義久]【テロの原因は本当に貧困なのか?】~ISの収入は年1200億円~
Japan In-depth / 2015年12月10日 0時58分
日本の「識者」たちの解説ではもっぱらテロリズムは貧困や貧富の格差から起きるということのようだ。その説に従えば、テロに走る人間はそもそも貧困だということになる。あるいは貧困を減らせば、テロが減るという理屈にもなる。
ところが12月9日に一般メディアで報じられたイスラム過激派テロ組織「イスラム国(IS)」の財政状況をみると、「貧困→テロ」という因果関係には疑問が浮かんでくる。
ロンドンを拠点とするらしい国際危機管理情報誌「IHS紛争モニター」によれば、ISの2015年の収入が年間総計9億6000万ドル(約1200億円)なのだという。そのうちの50%の収入源は支配域内での「徴税」だとされた。支配域内での「電力、インターネット、商工業、農業などあらゆる経済活動に20%を課税した結果」なのだともいう。そして他の43%分は石油の密売で得た収入であり、残りは麻薬や古美術品の密売、人質の身代金からだという。
さてこんな構図から貧困が浮かびあがってくるだろうか。まず「徴税」の対象となる経済活動がISの支配区内で活発に繰り広げられているわけである。それらの経済活動にかかわる住民たちは収入の20%をISに差し出すこととなる。それでも生活を続けているのだ。
さらにIS地区の石油資源も密売が重要な資金源となるほど豊富なことが明白となる。実はアメリカや欧州の複数の政府筋はISの活動資金にはサウジアラビア系の過激派からの援助が大きいことを指摘している。なにしろ石油資源の豊かな地域なのである。
ちなみにもう一つのイスラム過激派テロ組織のアルカーイダも石油からの資金が豊富だった。首謀者のオサマ・ビンラーディンはそもそもサウジの富豪の家の出身だったことが知られている。貧困がアルカーイダというテロ組織を無差別へと追い込んだ、というような図式はどこからもみえてこないのだ。
貧困という経済要因をテロの主要な原因として指摘するのは、あまりに安易な言辞である。そもそも「貧困→テロ」の因果の証明ができていないのだ。テロにはまだまだ深くて大きい原因というのがひそんでいるとみるのが自然だろう。
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