[清谷信一]【陸自は輸送防護車を使いこなせない】~海外邦人救助に大きな懸念 その1~
Japan In-depth / 2015年12月26日 7時0分
しかもこれらの装甲車は防弾レベルが7.62ミリの小銃弾程度であり、NATO規格のレベル1であり、防御力が弱い。対してNATO諸国がこのような任務で使用する装甲車は最低でもレベル2、レベル3~4が使用される場合が多い。
しかも陸自の負傷者を救う衛生の態勢は極めてお粗末である。現在その体制の一新のために、防衛省では「防衛省・自衛隊の第一線救護における的確な救命に関する検討会」を開いているが、座長である佐々木勝都立広尾病院院長は10月2日発売の「月刊WILL」において「あまりにお粗末な自衛隊の医療体制」という論文を発表し、その中で、「検討会では自衛隊の医官はオブザーバーとして座っているだけで、自ら拡充を訴えることをしない。私が『もっと隊員の命を救える体制を整えるべきだ』と言えば後ろからついては来ますが、自ら道を切り拓こうとしない。これでは何のために防衛医科大学を出て医者になったのかわかりません」と、検討会に参加する防衛省側のやる気の無さを手厳しく批判している。
お粗末な現状をどうにかしようという気位も危機感もない。このためただでさえ耐地雷機能がない装甲車で被雷し、大損害をだしてもまともな手当を受けることができない。陸自は多くの損害を出すことになる。防衛省は他国のイラクやアフガンでの戦訓を何も研究していない。自衛官は使い捨てかと言いたくなる。
またブッシュマスターにしてもルーフの銃座には防楯もない5.56ミリ機銃のMINIMIが装備されていた。この種の任務では射手の安全を確保するために周囲を装甲や防弾ガラスの防楯で囲まれた開放型の機銃座が採用されることが多い。実際イラクに派遣された軽装甲機動車なども全周型の防楯を採用していたのだが。
また車内から操作ができるRWS(リモート・ウエポン・ステーション)などを併用して装備することも多い。ズーム機能を持ち、安定装置と暗視装置を組み込んだRWSは走行中でも、肉眼より遥かに夜間でも相手を探知し、正確に射撃できる。また当然ながら相手が隠れていそうな場所を、ズーム機能を使って偵察することもできる。更には車内から操作するので、射手が被弾する可能性が大きく低減する。
中国や途上国でもこのRWSを既に実用化しているが、防衛省では技術研究本部が開発中ではあるが、自衛隊では一つも採用されていない。更に申せば、紛争地では武装勢力はたいてい、7.62ミリあるいは12.7ミリのロシア系の機銃を使っている。5.56ミリ機銃では対抗ができない。ところが陸自は戦車などの同軸機銃以外、7.62ミリ機銃を廃止してしまった。理由は国内の交戦距離が短いというのだが、であれば戦車の砲塔に搭載している12.7ミリ機銃も過大だということになる。7.72ミリ機銃を廃止したのは世界で陸自ぐらいのものだ。
(【陸自の輸送防護車、高額な調達価格】~海外邦人救助に大きな懸念 その2~ に続く。全2回)
※トップ画像:ブッシュマスターの輸送型©清谷信一
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