[渡辺真由子]【夫婦別姓訴訟報道:メディア・リテラシー必要性高まる】~特集「2016年を占う!」報道~
Japan In-depth / 2015年12月27日 8時0分
「あ〜良かった、私は夫と同じ姓になりたいので」と街頭インタビューに答える人を、テレビが報じていた。2015年12月、夫婦同姓を定めた民法の規定について、最高裁が「憲法に違反しない」との判断を初めて示したことへの反応だ。
だが最高裁は、夫婦同姓は憲法上許される、と言っただけで、夫婦別姓がダメとは言っていない。そもそも、原告側が求めた「選択的夫婦別姓制度」とは、文字通り、夫婦が別々の姓を名乗ることを「選択」出来るようにするもの。つまり、別姓を選ぶ自由を増やすだけで、「同じ姓になりたい人はそのままでどうぞ」という制度なのである。冒頭のインタビューを受けた人がこの点を理解していれば、あのような回答にはならなかっただろう。
ではなぜ、誤解に基づく回答がインタビューとして収録され、ニュースとして編集されて公共の電波に乗り、テレビ画面を通じて大勢の人の耳目に届いたのだろうか。ここで浮かぶ疑問は、インタビューをしたレポーターが果たして正確な知識を持っていたのか、ということである。例え相手が誤解に基づく回答をしたとしても、レポーターがきちんと正しい情報を説明すれば、新たな回答を引き出せた。あるいは、インタビュー内容をチェックする担当者であるデスクがおかしさに気付けば、この回答を表に出すことは防げたはずだ。
メディアには、ある話題について「何が重要な問題なのか」を社会に示す「議題設定機能」があるとされる。冒頭の回答を聞いた視聴者の中には、「そうか、もし原告が勝っていれば、自分も夫婦バラバラの姓にしなくちゃいけないんだ」と、誤った問題意識が生じた人もいるであろう。さて、このような議題を設定したレポーターやデスクは単なる無知だったのか、それとも……。
これに限らず今回の件の報道では、メディアによって論調の差が目立った。夫婦別姓というテーマはもともと、メディアによって賛否が大きく分かれるテーマである。一般に、革新的なメディアほど賛成、保守的なメディアほど反対の姿勢を見せる。革新的メディアの代表格である朝日新聞は、夫婦別姓が認められないことに悩む人々の声を紙面で積極的に紹介し、判決翌日の社説は「『夫婦同姓』の最高裁判決 時代に合った民法を」と現状改善を促した。
一方、保守的なメディアの代表格である産経新聞は、夫婦別姓に批判的な論客の声を積極的に紹介し、社説は「夫婦同姓『合憲』という最高裁判断は妥当 家族の意義と『絆』守った」と大いに好意的だった。
メディアに対し、「中立な客観報道をしていないのではないか」とのバッシングがなされる昨今だが、実は客観報道などあり得ない。それぞれのメディアにはイデオロギー(思想・信条)がある。インタビューでどのような質問をするか、記事にどんな見出しを付けるか、どの専門家のコメントを紹介するか、といった報道過程に、それらのイデオロギーは盛り込まれる。とりわけ2015年の締めくくりを飾ったのが、各メディアのイデオロギーが顕著に出る夫婦別姓訴訟報道だった。
2016年も様々な出来事が、メディアを賑わすに違いない。情報の受け手である我々には、メディアの情報をうのみにせず批判的に読み解く能力、すなわち「メディア・リテラシー」がより必要になるだろう。まずは関心のあるテーマについて、多様なメディアの論調に触れるところから、新年の情報収集をスタートしてみては如何だろうか。
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