[岡部伸]【「ホーム・グロウン」テロリストに怯える欧州】~特集「2016年を占う!」国際テロ~
Japan In-depth / 2015年12月27日 18時0分
中東やアフリカから欧州に難民や移民が押し寄せる中で、フランスのパリで起きた同時多発テロは、世界に大きな衝撃を与えた。犯行グループのメンバーがイスラム系の移民だったことから、フランス、欧州各地でイスラム教徒や移民に対する差別や偏見の動きが目立っている。
フランスで事件後に初めて行われた地方選では、移民排斥を訴える極右政党の国民戦線が2010年の前回選挙を約20ポイント上回る得票率で各州での議席を大幅に増やした。イスラム系の移民を支援するNGOへの補助金廃止やイスラム教の礼拝所・モスクの閉鎖などを訴え、寛容さや多様性を重んじてきたフランスで支持を広げたためだった。
反イスラム、反移民の動きが広がるのは、このところ欧州で発生したテロの多くがフランスや英国など欧州国内で生まれ育ったイスラム教徒の「普通の青年」による犯行だったためだ。いわゆる国産の(ホーム・グロウン)テロリストが急増しており、この傾向は2016年も続くと見られている。
彼らは1960年代に欧州の労働力不足を補うため、植民地から移り住んだ移民の子孫たちだ。イスラム教徒ではあるが、熱心な信者でもなく、家庭が貧困で教育が受けられなかったため、疎外感を感じてテロに走ったのではない。むしろ欧州の言語を話し、教育を受けた西欧の普通の若者だ。友人や知人を通じて宗教に目覚め、過激主義に染まり、グローバルなイスラム教集団に価値観を見出し、イスラム教世界を抑圧する世界として西欧の『帝国主義』を批判的に見るようになったといわれる。
現在、欧州が最も頭を悩ませているのが、イスラム国家の樹立を掲げる過激組織IS(イスラム国)だ。国内に住むイスラム教徒の若者たちの間で、ISシンパが驚くほどのペースで広がり、その多くが欧州の祖国を捨て、シリアに行ってISで訓練を受けて戦士(テロリスト)として戦闘行為を行っている。
これまでシリアに向かうのは若い男性が中心だったが、最近では若い女性や母親が子供を連れてISに入るケースも続出している。彼らは欧州社会に融合して、高等教育を受けた中流家庭出身が多い。英秘密情報部(M16)など捜査機関が懸念するのが、政治週刊紙「シャルリー・エブド」を襲撃したテロのようにシリアなどでテロリストとして養成された若者が欧州に戻って一般市民にテロを仕掛ける可能性だ。戦士たちは祖国に戻り、西側諸国を標的とした攻撃を開始することになる。
元M16のテロ防止対策部長、リチャード・バレット氏がこのほどロイター通信に語ったところでは、シリアは西側などの外国人31,000人を戦士に育てる世界最高のテロリスト養成所になり、空爆にもかかわらず、ISの外国人戦士は過去1年半で倍増している。戦士はノルウェーからウズベキスタンまで86カ国から参加。チュニジアやサウジアラビア、旧ソ連諸国出身が目立つが、フランス、英国、ドイツ、ベルギー4カ国から3,700人はじめ欧州連合(EU)諸国からおよそ5,000人が参加しているという。
英週刊誌「エコノミスト」2015年8月30日号によると、シリアにいる戦士の中で81カ国の外国から約1万2,000人が参加し、このうち欧州出身者は約3,000人。欧州出身の戦士=テロリストは数も出身国も急増している。
昨年9月に始まった米国主導の有志連合によるシリアに対する空爆も1年以上が経過したが、テロリストは急増しており、ISを掃討する「効果が上がっていない」との見方が大きい。バレット氏は「空爆だけでは解決しない。彼らの主張に近づける方法を探さなければ、危機を増大させる」と警告する。
欧州からISに参加するためシリアに向かう若者を阻止出来ず、シリアやアフリカから、ISを逃れて押しかける移民、難民にギリシャ、イタリア、ハンガリーなどは悲鳴を上げている。欧州は戦後最大の危機を迎えていることは間違いなさそうだ。
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