[千野境子]【ヒラリー・クリントン大統領誕生?】~特集「2016年を占う!」国際政治~
Japan In-depth / 2015年12月28日 11時0分
「女性が輝く社会」の第1歩は日本より世界が一足先に踏み出しそうだ。1月16日投票の台湾総統選挙は民進党の女性代表、祭英文主席の勝利が有力視されている。
「天の半分は女性が支える」と言ったのは毛沢東だったが、自らは江青夫人に手を焼き、中国共産党も出来なかった女性最高指導者が民主選挙により台湾に誕生すれば、間違いなく快挙である。
5月のフィリピン大統領選挙でも女性のグレース・ポー上院議員が本命とされてきた。生後間もなく捨てられ、生みの両親が分からぬままに米国で養父に育てられ、後年比国籍を得て帰国し上院議員になった経歴も現代版シンデレラのように輝いている。ただし選挙管理委員会がポー議員の比在住期間が立候補要件を満たさないとしたためポー議員は不服を申し立て係争中だ。もっともフィリピンはすでにコラソン・アキノとグロリア・アロヨという2人の女性大統領を輩出している。
ハイライトは11月8日、最強の「ガラスの天井」が割れ、ヒラリー・クリントン第45代米大統領が誕生するかどうかだろう。その可否は米国のみならず世界情勢にも大きな影響を与える。問題は誰が共和党候補になるか。キューバ系二世の若いマルコ・ルビオ上院議員になると手強いとヒラリー陣営も見ている。
以上は「たら、れば」の話だが、2015年11月の総選挙で圧勝したミャンマーの野党、国民民主連盟(NLD)を率いるアウン・サン・スー・チー党首の場合は仮定形ではなく、いよいよ政治的手腕が問われる。
憲法の制約から大統領に就任出来ないため、本人は「大統領以上の存在になる」と語っている。親しい関係者に当てた2016年へのメッセージからその心を読むと、新しいミャンマーの最優先課題として平和や繁栄より前に「国民和解」を掲げている。
自分や反政府活動家たちを厳しく弾圧して来た体制側や軍部への報復に決して言及しないのは、国家統治経験のないNLDには彼らの協力が不可欠という現実的判断だけでなく、国民和解こそが彼女の思想の重要なバックボーンだからだろう。
しかし2015年を振り返ると、世界は和解どころか憎しみと対立が席巻した。中でもイスラム教スンニ派原理主義過激派「IS(イスラム国)」は虐殺、テロ、遺跡の破壊…と暴虐の限りを尽くし世界を震撼させた。残念ながら2016年もISの根絶は難しい。
ただし、さしものISもピークは終わりに近づいているように思う。2016年は希望的観測も込めれば、ISの終わりの始まりの年として記憶されるかもしれない。欧米やロシアなどによる空爆など攻撃の強化に加えて、彼ら自身の自壊作用も起きているからだ。時代錯誤の狂気がそんなに持続するはずはない。もっともその結果、傭兵たちが自国へUターンし、その分逆にテロが世界各地へ拡散する危険もある。
ピークが過ぎたと言えば、中国経済のピーク・アウトはいよいよ本物のようだ。いまだ原因の分からない天津の工場爆発、大気汚染が最高レベルという赤色警報、広東省で積み上げた大量の土砂崩壊、山東省鉱山の崩落…事件や事故はますますエスカレートし、何が起きても驚かなくなりそうで怖いほどだ。人命があまりも軽く、人々の怒りは膨らむばかりだろう。生産を落とせば大気汚染は緩和されるが、それは景気減速を招き社会不安につながる。中国経済は自縄自縛に陥っている。
そうした中、アジア・インフラ投資銀行(AIIB)が始動する。2016年、中国はAIIBに国運を賭ける思いだろう。南シナ海の人工島を巡って米国の予期以上の反撃に出遭った中国は、一旦矛を収め、西へと針路を変える。と言っても南シナ海から手を引くことはない。2016年もその海上行動には引き続き要警戒で、東シナ海ともども目が離せない。
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