戦力外通告、雨の草薙球場~プロ野球選手のセカンドキャリア その1~
Japan In-depth / 2015年12月29日 18時0分
午後3時過ぎには、トライアウトは終了した。落合GMの周りにはメディアが殺到。球場外では、多くのファンが野球関係者や選手の出待ちをしていた。
サポートする若者
その草薙球場に、別の目的で足を運んでいる元プロ野球選手がいた。戦力外通告を受け、その後に野球が続けることが出来なくなった若者たちの"次の"人生をサポートする人物だ。川口寛人(30)、元巨人軍選手。育成選手としてドラフト指名を受けたが、怪我に泣かされ、戦力外通告。日本リアライズ(株)でアスリート・セカンド・キャリア・サポート事業部で活躍中だ。企業と元選手をマッチングさせるだけでなく、社会人としてのスキルアップをさせるサポートもしている。彼自身については、後述する。
川口は自ら手作りの就活セミナーのパンフレット60部を手に、選手たちに声をかけていた。昨年までは、川口のような立場の人間も簡単に球場内の通路などに入れていたが、今年は元巨人軍選手による野球賭博事件が発覚し、安易に中に入れなくなってしまっていた。それでも、何とかロッカールームまでやっとの思いでたどり着き、懸命に選手に声をかけ、就活パンフを手渡した。
「若い今だからこそ、やり直しはいくらでもきく。彼らの根性があれば、必ず野球以外でも成功出来る」
川口は目を輝かす。自らの体験が、その事を裏付けていた。
しかし、手渡そうとしても、中には「そんなもの、受け取れるか!俺には野球しかないんだ」と、見向きもされないことも少なくはない。それでも、川口は辛抱強く、声をかけ、話をした。自分にも彼らの痛みが嫌と言うほどわかるからだ。
その先へ
昨年までは2回、トライアウトが実施され、昨年は約60人中7人がプロ野球選手として、残留できた。今年は、育成を含め、続行出来る者は現時点でわずかに3人。元中日・山田壮馬投手(30)が楽天、元ソフトバンク・白根尚貴投手(22)がDeNA、元ヤクルトの金伏ウーゴ投手(26)が巨人の育成契約。他の若者たちの携帯電話には、プロ野球の球団関係者からの着信は今のところは、ない。この日、3安打と、大当たりをした人間の元にさえ。
ある野球関係者は言う。
「トライアウトは確かにチャレンジの場ではある。しかし、彼らに『野球を諦めさせる』場、なのだ」と。
草薙球場と言えば、古くは1934年の日米野球で、後に巨人の初代エースとなった沢村栄治が、ベーブルースを三振に打ち取った球場として名を馳せる、伝統ある球場だ。ある意味、野球人としての自分と別れを告げる最後の場としてはふさわしいと言えるのかもしれない。
プロ野球選手を夢見て、野球だけをやって来た若者たち。その先の人生についてなど、微塵も考えてはいなかったのだが―。
(文中敬称略)
(その2に続く)
写真 /撮影©神津伸子
写真1、朝から厚い雲に覆われた静岡・草薙球場。雨足が強くなることもしばしば。
写真2、トライアウト後も、観客はなかなか球場を立ち去ろうとはしなかった。場外には、沢村栄治と、ベーブルースの記念像も。
写真3、多くの報道陣も詰めかけた草薙球場のトライアウト。
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