[渡辺敦子]【「地政学的」に見る:地元(ローカル)の意味 その1】~地理と政治の関係とその将来~
Japan In-depth / 2016年1月3日 23時0分
昨今、「地政学」が流行しているようである。私は多分、日本ではごく少数の「地政学」を専門とする研究者であるから、ここから新年を考えてみようと思う。
まず、私の立場を明らかにしておく。私の専門は思想史で、「地政学」という学問がどのように歴史的発展を遂げてきたかが研究課題であり、地政学的手法により国際関係を分析することではない。よって本稿は、「地政学的国際情勢の予測」ではなく、「地理とわたしたちの政治の関係とその将来」について考えるのが主眼である。
「地政学」とは、そもそもなんであろう。
この言葉は19世紀末、スェーデンの政治家兼学者が考案した。ドイツ政治地理学の祖ラッツェルの地理的決定論が源流とされ、雑駁に言えば「地理的環境が政治に及ぼす影響を考える学問体系」である。類似した理論はドイツ、英国、米国などで前世紀前半に発達し、特にドイツでの流行は顕著で「ヒトラーの科学」と呼ばれた。だがこれは最近の研究では、かなり誇張されたものであったことがわかっている。
日本も全く無縁ではなく、代表的地政学者のハウスホファーはバイエルンの日本駐在武官で日本を愛した。戦中には彼の影響を受けた「大東亜地政学」が発達し、多くの地理学者、政治学者がその方法論を援用した。雑誌『地政学』は学者だけでなく軍人や一般人にも多く読まれたようである。戦後は、この戦争とのかかわりが影響し、欧米でもダブー視される。
日本では、地政学という言葉自体がほぼ抹殺された。1970年代にキッシンジャー国務長官がgeopoliticsという言葉「復活」させ、日本では1980年に倉前盛通が『悪の論理—地政学とはなにか』を出版した。
このように地政学という言葉は世界中で散発的に流行し、むしろ学界以外のマスコミや政界、近年ではエネルギー市場などで用いられ、文脈に専門的なイメージを与える魔法の形容詞でもある。
先日、新聞にこんな一文があった。「インドは地政学的な観点から中国との緊張関係をにらみ…」。これは言い換えれば「地理的に隣接するインドと中国は政治的緊張関係にあり」となるが、前者のほうが真実に迫る感がある。またこの記者は意識していないであろうが、国際政治の世界で用いられる時は、ある隠れた法則性がある。形容される国は大抵、欧米以外のパワフルな国であることだ。
2014年Foreign Affairs誌に投稿された論文「地政学の復活」は、その好例だ。いわく、ロシア、中国、日本、イランといった「パワープレーヤーが国際関係に戻ってきた」。「米国やEUなどは少なくとも、このような動きを不穏なものと受け止めている」。つまり、地政学的パワーを振るうのは、the West以外の不穏な勢力である(拙稿「習近平主席英国訪問の反響」参照)
-
- 1
- 2
この記事に関連するニュース
-
「やたら歴史で物事を語りがち」現代中国人の心理 『中国ぎらいのための中国史』安田峰俊氏に聞く
東洋経済オンライン / 2024年12月18日 8時0分
-
毎週3時間/全8回、気鋭の研究者13名と「食」の“根本”を問い直す──人文・社会科学の視点から新たな「食の価値循環」を探求する、インテンシブ・レクチャーシリーズ「FoodScopes」が開講!
PR TIMES / 2024年12月15日 22時40分
-
戒厳令の衝撃…ユン政権崩壊の危機迫る 日韓関係と東アジア安全保障に暗雲
まいどなニュース / 2024年12月7日 14時45分
-
JICA(国際協力機構)特別アドバイザー・三原朝彦 × JAPAN DX会長・鈴木壮治「日本には本来、自立・自助の精神がある。経済力を高めて世界から尊敬される国づくりを!」
財界オンライン / 2024年12月2日 15時0分
ランキング
-
1米が関係改善望むなら応じる用意、次期政権の出方次第=ロシア外相
ロイター / 2024年12月26日 20時12分
-
2バイデン氏がウクライナ支援増強を指示 クリスマス攻撃のロシアを非難、退任前に圧力強化
産経ニュース / 2024年12月26日 17時14分
-
3イスラエル・ネタニヤフ首相がトランプ氏の就任式出席へ 逮捕状を出されて以降、初の外遊か
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年12月26日 15時13分
-
4ロシア軍のミサイル誤射説も浮上 カザフスタンの旅客機墜落、死者は38人に
産経ニュース / 2024年12月26日 9時4分
-
5ナチスのトンネル、富裕層向けシェルター改造計画に怒り
AFPBB News / 2024年12月26日 18時51分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください