拉致事件初の英語本出版~その紹介に動かぬ日本政府~
Japan In-depth / 2016年2月6日 19時0分
ただしボイントン氏は拉致事件の背景と称して日本人と朝鮮民族との歴史的なかかわりあいを解説するなかで日本人が朝鮮人に激しい優越感を抱くというような断定をも述べていた。文化人類学的な両民族の交流の歴史を奇妙にねじって、いまの日朝関係のあり方の説明としているのだ。
しかし同セミナーでの自書の紹介ではボイントン氏はそうした側面には触れず、ビデオを使って、もっぱら日本人被害者とその家族の悲劇に重点をおき、語り進んでいった。
「なんの罪もない若い日本人男女が異様な独裁国家の工作員に連行され、北朝鮮に拘束されて、人生の大半を過ごすことを強いられました。同情すべき被害者たちが救出を自国政府に頼ることもできない悲惨な状況はいまも続いています」
ボイントン氏のこうした解説に対して参加者から同調的な意見や質問が提起された。
ただしパネリストのブルッキングス研究所の研究員で朝鮮問題専門家の韓国系アメリカ人学者のキャサリン・ムン氏が「日本での拉致解決運動が一部の特殊な勢力に政治利用されてはいないのでしょうか」という疑問を呈したのが異端だった。だが同じパネリストの外交評議会日本担当研究員のシーラ・スミス氏が「いや拉致解決は日本の国民全体の切望となっています」と否定したのが印象的だった。
だがなお残った疑問は日本にとってこれほど重要な本の紹介をなぜ日本ではなく韓国の政府機関が実行するのか、だった。KEIは韓国政府の資金で運営される。日本側にもワシントンには大使館以外に日本広報文化センターという立派な機関が存在するのだ。だが同センターの活動はもっぱらアニメや映画の上映など日本文化の紹介だけなのである。安倍政権の重要施策の対外発信はどうなっているのだろう。
*トップ写真©Japan In-depth編集部
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