ジカ熱流行、リオ五輪に暗雲
Japan In-depth / 2016年2月10日 7時0分
瀬尾温知(スポーツライター)
「瀬尾温知のMais um・マイズゥン」(ポルトガル語でOne moreという意味)
リオデジャネイロオリンピック開幕まで半年を切った。日本はサッカーが6大会連続の出場を決め、個人でも、体操の内村航平選手やレスリングの吉田沙保里選手などが代表を確実としている。今後は、マラソンの選考レースなどが控えていて、いよいよ大会が近づいてきたという雰囲気になってきたが、開催国・ブラジルは、施設の準備遅れを指摘され続けているところへ、ジカ熱が流行し、南米初のイベントに不安をもたれている。近年は腐敗した政府へのデモが頻繁に起きている中、ブラジルがオリンピックを開催する意義は何なのだろうか。
今月の3日、リオの病院が雨漏りして一時閉鎖になるなど、医療現場に混乱が生じ、ジカ熱に感染した患者の治療ができない事態になっていた。ブラジルは、医療体制が十分に整っておらず、風邪などの患者が無料で診察してくれる病院へ行っても、何時間も待たされるのが現状。医療に予算を捻出しない政府に対する国民の不満は、日頃から存在している。
ブラジルでは、蚊を媒介とするデング熱で死者が毎年出ている。ブラジル保健省は、去年の10月、デング熱によるその年の死者数が、感染者数の統計をとりはじめた1990年以降、過去最多の693人に上ったと発表したばかりだった。事態の改善が求められているのは、数値にも明確に表われていたのだ。それにもかかわらず、有効的な打開策を打ち出さないままだった。そして今年、蚊による感染症で先天的に頭部が小さい小頭症の新生児が急増するという事態に危機が拡大した。
8月5日のオリンピック開幕まで半年を切ったブラジルは、現在カルナヴァウ(ポルトガル語:カーニバル)の真っ只中。この期間、ブラジル最大テレビ局のグローボは、リオのパレードを夜な夜な生中継するなど、お祭り気分が濃くなる。その分、ジカ熱の報道が少なくなる。政府にとっては、サンバパレードが救いになっているのだ。日本では、甘利明経済再生相が違法献金疑惑の責任をとって辞任した話題が、元プロ野球選手・清原和博の覚醒剤による逮捕で吹き飛び、安倍内閣が胸をなでおろしたのと似通っている。現政権にとっては、“図ったかのようなタイミング”で、有名人が薬物で逮捕されるという一幕だったのだ。
ブラジルは、周囲の国々から口酸っぱく指摘されても、オリンピックへの準備はマイペース。およそ2年前に開催したワールドカップのときの再現を見ているかのようだ。同じことを繰り返してしまうのが、「未来の国」と長年言われ続けている所以である。国民性だから仕方がないのだろう。生真面目な日本人のように、用意周到に準備することはできないのである。だから、準備のことをああだこうだ言うつもりはない。でも、国費を、医療、教育へ十分に割り当ててない中で、ブラジルがオリンピックを開催することは、ブラジル国民に意味があるのだろうか。
せっかく開催するのだから、意義を見出さなければならない。オリンピック開催に反対のデモが多発している最中のタイミングで、ジカ熱の感染が拡大しているのは、開催の意義の議論を活発化させることを促しているように思えてならない。国民が政府に対し、異論を唱えて立ち上がる姿は、エネルギーを感じ、羨ましくなることがある。世界が注目する大きなイベントを成功させるために、そのエネルギーを団結させることが、ブラジルの意義になるのではないだろうか。開幕まであと半年、ブラジルの世論はどう動いていくのか、見守っていきたい。
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