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“模倣”という行為の奥深さ

Japan In-depth / 2016年2月12日 11時0分

“模倣”という行為の奥深さ

為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)


久しぶりに浜辺でスタートダッシュとそれから簡単なサーキットトレーニングを行っていたら、横で1歳と3ヶ月になる息子が、腕立て伏せの真似をし始めました。し始めたのはいいのですが、頭が上下しているところだけ強調して見えていたようで、ただ頭を上下させて体を伸び縮みさせるというなんとも滑稽な動きを繰り返していました。

人間には模倣という素晴らしい能力があります。この能力がなければスポーツの技能上達は成り立ちません。まず、模倣をするためには、目の前で起きている動きのポイントをつかまなければなりません。ピッチングの動作を模倣したいのに、足の親指と膝の連動ばかりを見ていてはうまく模倣できません。適切なポイント(しかも一つではなく二つ以上のポイントの関係性)をしっかりとつかむ必要があります。私たちは点ではなく、関係性を模倣しています。

さらにつかんだポイントを、今度は体で表現しなければなりません。そう動かそうと思うことと、本当にそう動くことと、のずれがあるとうまく模倣ができません。誰しも初めて自分が走っている時の映像を見てショックを受けますが、これは自分の中ではこう動いているつもりでも、実際はそうではなかった、というギャップから受けるものです。なるほどああやって投げればいいんだと頭では合点がいっても、そのように体を動かすには“思ったように体を動かすことができる”スキルが必要になります。

まずポイントがわかること、そしてそれを体で表現できること。この二つが模倣には必須ですが、更に高度な模倣の世界では、抽象化してそれを模倣することができるようになります。この世界では必ずしも対象と動きが似てくるわけではありませんが、力を入れるポイントや流れ全体を模倣するようになります。人間の骨格は違いますから、むしろこちらの方が本質的な模倣と言えるでしょう。これができるようになるには、目に見えている動きの奥でどんな意識でどこに力を入れているかがうっすらとでも見えるようになる必要があります。見えている現象ではなく、奥にあるみえないものを模倣するわけです。

見えないものを模倣できるようになると、動きを抽象化して捉えそれに体を乗せることができるようになります。おそらくは中国拳法の五獣拳などは、動物の動きや性質を抽象化したものを体現するということではないかと思います。現象のみを追いかける模倣は、決してオリジナルを超えることはできません。現象の奥にあるものを抽象化して模倣できる感覚が生まれると、世の中全ての物事が動いている様が(私にとっては)走りに見えるようになりました。

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