北朝鮮ミサイルテストと安保理 その1 「スマート制裁」効果なし
Japan In-depth / 2016年2月13日 18時0分
植木安弘(上智大学総合グローバル学部教授)
「植木安弘のグローバルイシュー考察」
北朝鮮が第4回目の核実験を行った1月6日の直後と衛星打ち上げと称して2月7日に行った弾道ミサイル打ち上げの直後、国連の安全保障理事会(安保理)はそれぞれ日米および日米韓の要請により緊急会合を開き、直ちに安保理議長国による記者声明を発表して北朝鮮の核実験を安保理決議の明白な違反としてこれを非難した。「記者声明」は決議のような法的拘束力はないが、安保理のメンバーの共通の認識を表明する手段であり、会合後発表された。
この二つの記者声明には、2006年、2009年と2013年(2つ)に出された4つの安保理決議が言及されており、そのうち3つは北朝鮮の過去3回の核実験後に出され、1つはミサイルテスト後に出されたものである。
いずれの場合も、このような核実験や弾道ミサイルテストは安保理決議や核不拡散条約(NPT)体制違反行為であり、国際の平和と安全への明確な脅威だと断定している。北朝鮮は既に1993年にNPTから脱退宣言をしているが、NPT体制下の核保有国としては認められていない。
北朝鮮の核実験後の安保理決議では各種の経済制裁が課されているが、その効果は表れていない。北朝鮮は核実験を繰り返し、1月の核実験は水素爆弾の実験だとしているが、それまでの核実験による地震のマグニチュードとほとんど同じだったことにより、本物の水素爆弾ではなく、ブースター型の実験だったとの見方が強くなっている。ただ、核開発が次の段階に進んでいることは明らかだ。ミサイル技術については以前よりもより強力なものになっていることは今回のミサイルテストの結果から読み取れる。
では、どうしてこれまでの経済制裁は効果を表さなかったのか。これまでの経済制裁決議を読むと、経済制裁は極めて限定的だったことが分かる。いわゆる「スマート制裁」を目指し、核開発や弾道ミサイル開発に従事、あるいは関連した企業や個人、政治指導者などに制裁が制限されている。
「スマート制裁」はイラクなどへの包括的な経済制裁が一般市民にも重大な人道危機をもたらした経験に鑑み、制裁の対象を政策決定やそれに関与した人に限定するが、これが効果を表すのは政策決定者が原油やダイヤモンド輸出といった特定のものへの依存度が極めて高い場合や、利害関係のある国々や外国企業が全面的に協力した場合だけである。
(北朝鮮ミサイルテストと安保理 その2 経済政策の抜け穴 に続く。全5回)
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