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介護職を「3K」から脱却させよ ある特養の工夫とは

Japan In-depth / 2016年2月17日 7時0分

では、広島県熊野町の特養「誠和園」における介護の土台とは、一体、どのようなものなのか。

まずはトイレから見ていこう。ポイントは3つ。便器の向きが通常とは逆で、利用者は扉側に背を向けて座る。タンクレスタイプなので便座の後ろに空間ができており、後方介助を可能にしている。三つ目が便器の前にFUNレストテーブル(折り畳み式)を設置し、利用者が体を預けられるようにしている点だ。これらの仕組みにより、車イスの人でも安心してトイレで排泄できるようになり、これまで2人必要だった介助も1人ですむようになったという。



1人の利用者が1日8回トイレに行くとすると、年間で2920回にのぼる。たくさんの入所者がいる施設である。創意工夫によるトイレ介助の効率化の効果は大きい。

浴室にも誠和園独自の装置が施されている。腰かけ台と前傾姿勢保持テーブルである。固定したテーブル(着脱式)にもたれることで介助者が体を洗いやすくなるという。こちらも1人での介助が可能となったという。つまり、テ―ブルが介護職員1人分の役割を担っていることになる。

こうした介護の土台の整備が誠和園のそこかしこになされている。例えば、居室や廊下、トイレなどの灯りだ。間接照明を基本とし、様々な照明器具を組み合わせている。それらは皆、現場職員らが試行錯誤を重ね、創意工夫を凝らして創り上げたものだった。

介護職の職業病といえば、腰痛である。中腰姿勢になることが多く、不自然な体勢での介助や負担の大きい介助を強いられることが要因だ。そのため介護ロボットの活用などが検討されている。だが、介護の土台作りに力を入れている「誠和園」では、腰痛に苦しむ職員は少ないという。

特養などの施設建設に多額の補助金が交付されるので、設備や運営について国などが基準を設けている。劣悪な施設が造られないように縛りをかけているのである。そういう仕組みになっているので、どの施設も介護の土台(ハード)がしっかり整備されているかと思われがちだが、実態はそうではない。国などが基準を設けているのは、居室や廊下、浴室などの広さやトイレの広さや数、それに配置される職員の数といったものだ。トイレや浴室などを具体的にどういうものにするかは施設の設置運営者の判断である。言うまでもなく利用者と介助者の双方にとって使い勝手の良い設備にすべきなのだが、残念ながらそうなっていない現実がある。



介護施設を初めて手掛けるという方の多くは事情に精通していないため、施設建設の実績をもつ設計事務所などに依存しがちとなる。ところが、そうした設計事務所も実際は介護現場を熟知しているわけではなく、良かれと思って利用者・介助者本位ではないものをつくってしまうのである。利用者と介護職員にそのしわ寄せが襲い掛かるのである。

では、新規参入ではなく、特養の増設などの場合はどうか。特養などを運営している社会福祉法人の役員の中には介護現場に関心を持たず、現場職員の声に耳を傾けないという人も少なくない。そうした人たちは介護の土台の整備という発想を持ちえず、外観や意匠、設備に新規さなどに走ってしまうのである。

介護離職ゼロを実現させるために最優先で取り組むべきは、施設の増設ではなく、介護職員の労働条件を向上させて既存の施設の質を高めることではないか。介護職を「3K仕事」から脱却させねばならない。

トップ画像:特養「誠和園」お風呂(腰かけ台と前傾姿勢保持テーブルが設置されている)©︎相川俊英

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