ジカ熱との戦い リオ五輪の憂鬱
Japan In-depth / 2016年2月20日 0時24分
瀬尾温知(スポーツライター)
「瀬尾温知のMais um・マイズゥン」(ポルトガル語でOne moreという意味)
ジカ熱のワクチンが開発へ向けて大きな一歩を踏み出した。アメリカの製薬会社「Inovio Pharmaceuticals」は17日、マウスによる実験で効果を確認したと発表。一方、アメリカの女子サッカー選手は、感染の危険が高いブラジルで開催されるオリンピックへの不参加を検討。医学界やスポーツ界など、世界中に動きが出ている。
中南米を中心に拡大している感染症は、新たにタイなども加わって34の国と地域に広がり、対策強化が進められているが、8月5日に開幕するリオデジャネイロ・オリンピックを安心して迎えることはできるのだろうか。
患者数が最大のブラジルは、その数が150万人にのぼったとみられている。ブラジル保健省は17日、小頭症と確認されたケースが508件、小頭症か神経の変調で27人が死亡し、小頭症の疑いがもたれているのは3935件に増大したと発表した。脳の形成が不完全な小頭症の赤ちゃんが生まれるのと、妊娠中の感染との関連性は、指摘されてはいるものの、まだ証明はされていない。
マウスを使った実験で、ジカ熱の流布を防ぐワクチンを確認したアメリカの製薬会社「Inovio Pharmaceuticals」のジョセフ・キム役員は「次はヒトでない霊長類でテストして、今年中にも人体実験を行いたい」と方針を明らかにした。
WHO・世界保健機関によると、現在15の会社と研究所がジカ熱のワクチン開発を行っている。インドの企業「Bharat Biotech」は、すでに動物への臨床実験の準備が整ったと2月初頭に報告している。
ほかにも、フランスの会社で、世界で初めてデング熱(蚊が媒介する感染症)のワクチンを製造した「Sanofi」が、2月2日にジカ熱ワクチンの計画を発表するなど、人類を脅かすウイルスへの対策が世界中で活発化している。
その一方、スポーツ界では、サッカー女子アメリカ代表のゴールキーパー、ホープ・ソロ選手が、リオデジャネイロ・オリンピックへの不参加を検討しているとの報道があった。元NFL・アメリカプロフットボール選手と結婚しているソロ選手は「いつ妊娠するか分からないし、子どもの健康にリスクが生じる事態は避けたい。いま決断しろと言われたら、リオへは行かないだろう」と話している。
WHOが発表した新たな対策強化は、ことし上半期に日本円で約64億円を投じ、感染が広がっている国での予防対策の周知や蚊の駆除、感染者への治療、ワクチンの開発、それに、感染した妊婦と小頭症との関連についての研究を行うとしている。
ブラジルでの予防対策の周知で、各家庭に配布された用紙には、ジカ熱、デング熱、チクングニア熱のそれぞれの症状が記されていた。ジカ熱の症状は、微熱で熱が出ない、関節痛が起き、最初の24時間にはほぼ必ず皮膚が赤くなり、かゆみを伴うことがあると書いてあった。
拙者は、3年前のブラジル滞在時に1週間ほど原因不明の熱にうなされたことがあるが、いま思えば、蚊媒介の感染熱だったのかもしれない。3月の初頭には、オリンピック関連のテレビ番組の取材でブラジルへ出張に行く。軍隊から22万人を動員し、殺虫剤をまくなどすべての州でジカ熱の予防対策をはじめた現地がどうなっているのか、図らずしてこの目で見ることになる。オリンピックが「蚊との戦い」とならないよう願うばかりである。
トップ画像:ブラジル政府公式オリンピックHP(http://www.brasil2016.gov.br/en)より
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