限界を突破する技術とは
Japan In-depth / 2016年2月28日 18時48分
為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)
人間が走っていると最初は息が上がってきます。うまく姿勢を保ちながら呼吸のリズムを整えるように意識をすると、もう少しその状態を引っ張れます。もしスピードが速ければ呼吸よりも足やお尻が熱くて動かなくなっていきます。業界用語でケツ割れと言います。それも一度限界だと思ったところから、腕を振ったり、姿勢や動きを変えると少し踏ん張れます。陸上選手はこういった練習を繰り返し、限界だと思ったところでうまくしのいでさらなる限界に至るというやり方を覚えていきます。
引退してから、力を出し切るということは技術なんだなと思いました。あまり走ってきた経験がない人と走ると、本人の限界は先だったとしても、その手前で諦めてしまい、踏ん張りきれないわけです。その本人の視点から言えば、限界に達したのでやめたというだけなのですが。
仕事をしていて、文章を書いたりコンセプトを練ることがよくあるのですが、人よりも没頭の度合いが大きい気がしています。私の人生は勉強とは無縁でしたし(高校時代の数学は8点!)、子供の頃はそれほど深く集中した印象がありませんから、自分では競技で手に入れた能力だと思っています。
人間は全力を出したり、力を出し切るということは最初はできなくて、体験することでその技術を覚えていくのではないかというが私の考えです。そして、その技術は一旦覚えてしまえば、程度の違いはあれど、他の世界でも応用可能なのではないでしょうか。
限界を超える経験をしたことがない人がいう限界は、私たちの視点でいう手前になるわけですが、当然その人たちはそう思っていません。限界を超える経験をした人は、何事もこの辺が限界かなと思ってから実はその奥があるのではないかと考える傾向にある気がします。自分が今思っている自分の範囲より、本当はもっと広い範囲まで自分はあると思えるということでしょうか。
限界付近はしんどいことがほとんどです。その時のしのぎ方は、長距離であれば頭の中で何を意識するのか、または呼吸やリズムになるそうです。短距離であれば姿勢です。しんどさを真正面に受けるのではなく、うまくしのげるようになるかどうかが限界を突破する上で大切なことではないかと考えています。
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