米国人が見た世界一の日本
Japan In-depth / 2016年3月1日 18時0分
古森義久(ジャーナリスト・国際教養大学 客員教授)
「古森義久の内外透視」
久しぶりでほんわかと楽しくなる本を読んだ。人間の温かさを感じさせる書とでもいおうか。わが日本の見直しかな、とも考えた。グローバリゼーションとか国際化という言葉のあふれる現代における古きよき日本、日本らしさが主題の本だといえる。しかも外国人がみた日本の姿なのだ。
「日本人が気付かない世界一素晴らしい国・日本」(ワック株式会社刊)という本である。
著者はジョージタウン大学のケビン・ドーク教授で、彼の日本とのかかわり、日本の考察が中身である。
ドーク氏といえば、東部の名門のジョージタウン大学で東アジア言語文化学部長まで務めた著名な学者で、専門は日本近代史、とくに日本のナショナリズムの研究で知られる。現在55歳のそのドーク氏が17歳のときに初めて交換留学生として来日し、長野県上田市にある県立の上田東高校に入るところから始まった日本体験をわかりやすく綴ったのがこの本である。
アメリカ中西部イリノイ州の小さな町から上田市での初めての外国生活をスタートさせたドーク少年が異世界、異文化になじんでいく過程が生き生きと描かれる。彼は柔道にも励み、指の骨を折っても屈せずに、日本人の仲間との稽古に夢中になる。そしてその日本が大好きになって、1年間の交換留学生の生活が終わっても日本にずっと残りたいと思い、上智大学への入学申請手続きまでをとった。
ところがアメリカの父親にどうしても帰国せよと命じられ、文字どおり泣く泣く日本を離れる。そのかわりにこの大好きな国とこんごもきずなを保とうと、大学や大学院でも日本研究の道を選んだ。そしてフルブライト奨学金を得て、また来日し、立教大学や東京大学で研修する機会を得る。
こうしたアメリカ人学者の日本体験記であり、日本論なのだが、単に日本が好きだという域を越え、日本の魅力や長所、そして弱点までをすべて実体験の皮膚感覚から始まるエピソードの積み重ねで紹介していく。そのうえで学者としての鋭い分析で日本の特徴を解明していく。だから「日本人自身が日本のすばらしさに気づいていない」とか「世界が『思いやり』と『おもてなし』の日本文化に気づき始めた」というような一見、平板にひびく考察にも説得力を感じさせる。
ドーク教授は本書では日本の天皇制、民族主義や近代史、首相の靖国神社参拝、宗教と文化といった主題にも踏み込み、鋭く論評する。だが全体を通じて彼個人の日本での生活ぶりや日米比較文学の研究者の夫人や2人の息子たちがいかに日本を好きになったかの多数の逸話がおもしろい。日本って、そんなに魅力ある国なのかと、思い知らされる書だとも感じた。
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