「赤い州」と「青い州」の意味 米大統領選クロニクル その6
Japan In-depth / 2016年3月15日 11時0分
古森義久(ジャーナリスト・国際教養大学 客員教授)
「古森義久の内外透視」
私が拠点とするアメリカの首都ワシントンDCでも3月12日、共和党の党員大会があった。私の住むマンションでも住民の知りあいの男女が誘いあって、やっと春らしくなった日差しのなか、徒歩で、あるいは車で、ぼつぼつと近くの集会場へ出かけていく姿がみうけられた。ああ、本当に選挙なのだなと、実感させられる光景である。
投票の結果はマルコ・ルビオ上院議員が最も多い票を得て、首位となった。この党員大会での総票数の37.3%を得て、共和党全国大会での代議員10人を獲得した。2位はオハイオ州知事のジョン・ケーシック氏で、得票率35.5%、代議員獲得数9人。ドナルド・トランプ候補は13.8%と3位に留まった。代議員を獲得できず、首都では敗北に終わった。ちなみにテッド・クルーズ上院議員は最下位、得票率12.4%だった。
だがこの数字も順位も実はさほど意味がない。なぜなら民主、共和両党の候補が正面から対決する本番選挙ではワシントンDC(正式呼称はコロンビア特別区)では共和党候補はまず絶対に勝てないからである。この地区では歴史的に民主党候補が必ず勝ってしまうのだ。理由は単純、首都の住民は民主党支持者が圧倒的に多いことである。そのまた理由となると、やはり首都には黒人住民が多いことがあげられる。歴史的に黒人は強固な民主党支持であり、首都では総人口の6割近くが黒人なのだ。
大統領選挙の長い歴史でもワシントンDCの民主党支持の強さは定評がある。なにしろこれまでただの一度も共和党候補が勝ったことがないのだ。これまでの大統領選挙で全米での圧倒的な大勝利としてはまず1984年に共和党のロナルド・レーガン氏が民主党ウォルター・モンデール氏を記録破りの大差で葬った戦いがある。このときはレーガン氏が全米50州のうち49州で勝利をおさめた。だがワシントンDCはモンデール氏が勝ったのである。
1972年にも共和党のリチャード・ニクソン大統領が民主党のジョージ・マクガバン候補を歴史的な大差で破った。このときもマクガバン氏はワシントンDCでは勝利を飾った。全米ではニクソン氏が50州のうち49州を席捲した。ワシントンDCは特別区だから州には入らない。
アメリカの選挙ではワシントンDCのように民主党が強い地区や州を「青い州」と呼ぶ。共和党が強いところは「赤い州」だ。この表現は全米的には2000年の選挙のときから定着した。それ以前はニュースメディアの区分では、わかりやすい色分けとして赤と青を使っていたが、民主、共和が逆のことも多々あった。それが民主はブルー、共和はレッドで落ち着いたのだ。
全米的にはここ20年ほどの投票結果からみると、「青い州」はハワイ、カリフォルニア、ニューヨークなど、「赤い州」はテキサス、アリゾナ、ネバダなど、その中間に英語で「Swing States」、つまりどちらかの党に振れる不確定な州がある。この区分は民主、共和両党の固定票と、その中間の浮動票とみても妥当である。
だから私が以前から聞いてきたのは、アメリカの大統領選挙は民主、共和両党の固定票がだいたい拮抗し、残りの浮動票、無所属票の争奪によって結果が決まる、というメカニズムだった。この構図は基本的にはいまも変わらないだろう。ただしドナルド・トランプ氏のような型破りの候補が出てくると、この構図もとらえにくくはなる。
だがそれでもなおこうした基本構図を知っておくことはこれからのアメリカ大統領選の行方を追う上でもきわめて有益だろう。
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