プロダクション・システムと日本型モノづくり 漫画アニメ立国論 その6
Japan In-depth / 2016年4月5日 7時0分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
「林信吾の西方見聞録」
前回取り上げた『クレヨンしんちゃん』だが、読者もよくご存じの通り、作者の臼井儀人氏は、2009年に不慮の事故で世を去っている。
しかし、アシスタントたちの手によって『新クレヨンしんちゃん』の 連載が再開されていることも、漫画好きな方々はご存じであろう。
『ナニワ金融道』(青木雄二・著 講談社)にも後日談があって、作者が世を去った後、アシスタントたちが「青木プロ作品」という形で新作を発表するなどした。
このプロダクション・システム、私は古い人間なので「アシスタント制度」と呼びたい方だが、ともあれこれこそが、日本の漫画やアニメが世界に認められるまでになった原動力ではないか、とさえ考えている。
ちょうど、ウォルト・ディズニー(1901~1964)が世を去って半世紀を経ても、なおディズニーのブランド名は健在で、新作を次々と発表することができているように。
ディズニーの場合、もともとアニメ映画の制作プロダクションとして起ち上げられたもので、そもそも創業者が、世に言う漫画本の世界にほとんど関わっていない(若い頃、新聞の漫画は少し書いた)が、日本ではふたつの流れがある。
ひとつはディズニーと同様、アニメ制作を主たる目的としたもの。かつて手塚治虫が設立した虫プロや、藤子不二雄らのスタジオ・ゼロなどが挙げられる。
いまひとつは、日本における漫画文化の隆盛にともない、一人での作業には限界があることから、アシスタントを採用して、分業化するためのもの。こちらの方が数の上でも、伝統の長さという点でも圧倒している。
漫画というのは、なにぶん細かい作業なので、背景や服の柄まで全部一人で描く、というわけにはなかなか行かない。まして日本は、週刊・隔週刊・月刊の漫画雑誌が数多くあり、書店やコンビニに新刊が並ばない日はまずない、という、世界でも類例を見ない国である。
毎日のように漫画雑誌が出ているということは、毎日のように誰かが締切前の修羅場にいる、ということなのだ。と言ってもこれは、出版業界で働いた経験のない方々には、なかなか伝わりにくい話なのかも知れないが。
いずれにせよ、人気漫画家ともなれば、その生活は多忙を極めるだけでなく、毎回斬新なアイデアを考え出さねばならない、というプレッシャーも並大抵のものではない。それに対する解決策が、プロダクション・システムなのだ。
これも前に取り上げたことがある『ゴルゴ13』だが、制作元のさいとうプロには、軍事技術関係や国際情勢、金融情勢など、専門分野に特化したライターが幾人も雇用契約を結んでいるという。
世界を股に掛けて、超人的な活躍をするスナイパーを描ききるためには、この程度の投資は必要だということなのだろう。また、こうした作り方であるからこそ、政治家が読んで「国際情勢の勉強になる」などと発言するほどのクオリティに仕上がるわけだ。
漫画家を目指す青少年にとっても、このシステムはありがたいものだと思う。
アシスタントになれば、好きなことを仕事にしつつ、漫画家の生活を間近で見て、編集者とのつきあい方から入稿までの段取りなどを学ぶことができる。
事実こうしたアシスタント生活を経て、一人前の漫画家となった例は、枚挙にいとまがない。たとえば赤塚不二夫のフジオ・プロは、これまた紹介済みの『BARレモンハート』など,漫画の中で多彩なウンチクを披露する古屋三敏、あるいは『釣りバカ日誌』(やまさき十三・原作 小学館)の北見けんいちらを輩出している。
私が何を言いたいか、お分かりであろうか。
池井戸潤氏の直木賞受賞作で、ドラマもヒットした『下町ロケット』(小学館)の例を引くまでもなく、日本経済を支えてきたのは、少数精鋭で職人芸の域に達した技術を誇りとする中小企業である。
労働環境は厳しくとも、従業員の中に家族的紐帯が存在し、職人のプライドを守り続けようとする経営理念こそ、日本のものづくりの原点であり到達点でもあった。その精神を失わない限り、日本で作られたmanga、animeは、今後も世界の市場を席巻し続けるに違いない。
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