中絶問題の暴言で躓いたトランプ 米国のリーダーどう決まる?その12
Japan In-depth / 2016年4月4日 18時0分
大原ケイ(米国在住リテラリー・エージェント)
「アメリカ本音通信」
これまでは暴言を重ねるたびに非難されながらもコアな支持者に支えられてきた共和党大統領候補のドナルド・トランプだが、ようやく最初の躓きを見せている。次の予備選で注目されているウィスコンシン州では、テッド・クルーズに負けるという事前調査が増えてきた。
アメリカでは1973年の「ロー対ウェイド」判決によって、中絶が合法とされ、妊娠を続けるかどうかを決めるのは当の女性に与えられた権利とされているが、民主党と共和党ではこの法令に対する考え方がまったく異なる。
民主党は、ロー対ウェードの判決を重んじ、中絶を女性の権利とする「プロ・チョイス」であるのに対し、共和党の議員や知事はほとんどが「プロ・ライフ」と呼ばれる中絶反対派だ。反対と言っても程度に差があり、レイプや近親相姦による妊娠や、母体に危険が及ぶ妊娠であれば中絶を許す派から、何が何でも胎児が誕生した瞬間から中絶を殺人にも近い罪とみなす保守派までいるが、過激派の中には、中絶手術を提供する医師など殺しても罪にならないとまで説く者もいる。
共和党から大統領選に出馬するとなれば、保守層の支持を取り付けるためには「プロ・ライフ」であることが絶対条件だ。2012年の候補だったミット・ロムニーもマサチューセッツ州知事時代は一部の中絶を認めていたが、大統領候補に名乗りを上げた頃から立場を変えていった。
事の発端は先月30日に「タウンホール」と呼ばれるインタビュー形式のイベントにおいて中絶に関し、どのような立場かを問われたトランプは「中絶は違法とすべき」という共和党のお題目を唱えたところまではよかった。だが「どのように違法とするのか? 誰をどのように罰するのか?」と突っ込まれて「中絶手術を受ける女性に対し、なんらかの罰則があるべきだ」と言ったのである。(同時に妊娠させた男性に対してはお咎めは一切なしらしい)
民主党候補からはもちろん、指名を争う共和党のライバルであるクルーズと、ジョン・ケイシックからも「私は彼とは立場が違う」「トランプは間違っている」と非難され、「罰を与えるかどうかは州ごとに決めるべき」、そして「違法な中絶手術を行う施設に対して罰則があるべきだ」と発言をコロコロと変えた。
それまでも、中絶手術だけでなく、女性の健康問題全体にサービスを行なってきた非営利団体「プランド・パレントフッド」の活動そのものは悪くないと発言して、なんとしてもこの団体を潰そうとしている保守派に叩かれた前歴もあるが、実はまだ大統領選出馬を考えていなかった1999年の時点では、ニューヨークのビジネスエグゼクティブらしく、全面的に「プロ・チョイス」だった。今では「レーガン同様(保守派の支持を取り付けるためのキーワードだ)、私の考えも変わってきた」とお茶を濁す。
これに懲りたわけでもないだろうが、その後「プロ・ライフ」かどうかという質問に対しては答えることさえも拒否している。トランプの立場や本音がどうであれ、これはアメリカで合法の判決が下りて以来40年以上にも渡って議論されてきた問題であり、避けては通れない質問であることは明白なのに、二転三転もするようなことを言ってしまうのは、トランプが保守派であるかどうかの前に、考えが足りない人物だということを露呈している。
一方で、選挙運動の経験がないトランプ陣営は、既に予選を終えた州でも選挙人が党大会で寝返らないように確約しておくなど調整を怠ってきたので、夏の党大会までに過半数の選挙人が得られなかった場合、共和党幹部の下克上にしてやられるシナリオにも現実味が出てきた。
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