やる気のない人の未来とは
Japan In-depth / 2016年5月21日 7時0分
為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)
いわゆる昔の体育会的な世界は、気合いと根性で無理やりにでもトレーニングをさせるシステムだった。そういうマッチョな世界観が崩れて、最近はあくまで個人の意思を尊重する世界への過渡期にあると思うのだけれど、ある一線を超えてくると別の問題が生じてくるように思う。
学生と会っていると、二極化しているなと感じる。大学の時点ですでに起業していたり、政府のプロジェクトに参加していたり、スポーツや文化面で世界で勝負していたりする。仕事の進め方を見ていると、足の速さぐらいしか勝てそうにない(アスリートの場合それも危ういが)。ともかくすごく優秀な学生がたくさんいる。一方で、これはなかなか厳しいなと思う社会人もいる。
昔の組織からの圧力は突き詰めれば“やらざるをえない状況に追い込むため”のものが多かった。スポーツも有無を言わさずコーチにやらされていたので、能力のあるものもないものもとにかくやるしかなかった。それによって怪我などで潰れてしまった才能もたくさんあるが、やる気がないけれど、流れに乗って部活に入ってしまったような学生も、そこそこ伸びていき、伸びれば誰でも楽しくなるからそれである一定のレベルまで到達するという事が起きた。
全体が個人に努力を要求しない世界では、能力とやる気のあるものは、組織の都合で無理やりやらされることも、間違えたトレーニングをさせられる事もなく、本来の実力を発揮していくのだと思う。一方で、能力がなく、やる気がない人は、周囲から圧力をかけ努力させる事ができないため、本当に何もやらず成長しないという道を選んでしまえる。
大人になってやる気になるということすら、生育環境に影響を受けていて、そういう意味では、個人の意思を尊重し、貧富の差が広がり、かつ教育でそれがうまく是正できない社会では、努力した人が報われるという極めて正しい形で、世の中が極端に二極化していくのではないか。
やる気のある人には素晴らしい世界が待っている。何しろ自分の好きなように自分に負荷をかけてもいいのだ。またそのチャンスも広がっている。一方でやる気のない人は、やらなければやらなかっただけの未来が待っていて、それは年数が経つほど取り返しにくい。無理やりにでもやらせる人はこれからはいない。
自由な未来が広がっている。自由の世界は幅が広く、全ては自分の意思と選択と日々の積み重ねに委ねられている。
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