中国海軍艦、尖閣接続水域に入る
Japan In-depth / 2016年6月9日 9時40分
文谷数重(軍事専門誌ライター)
日本も明示的に護衛艦を接続水域に入れるべきではないか?
9日未明、中国海軍のフリゲートが尖閣諸島の接続水域内に入った。第一報段階であるが航行したのは最新のミサイルフリゲート、054型であるという。
■ 暗黙のルールに触れる
これは日中の尖閣を巡るゲームでの、暗黙のルールに抵触する行動である。
もちろん接続水域は、ほぼ公海と変わらない。どこの国の船舶でも自由に利用できる海である。
だが「尖閣問題では軍隊を使わない」といった日中の暗黙のルールでは問題視すべき行為である。尖閣周辺で使って良いのは公船だけであり、そこでも現状を超える実効支配積み上げはやらないことになっているためだ。2010年の漁船衝突-起訴事件以降、日中はこのルールに基づいてゲームを行ってきた。
中国がそれに触れる行為を行ったのであれば、日本も同等。同規模の対抗をすべきである。具体的には同じサイズの護衛艦、例えば「あめ」型や「なみ」型を同じ時間、明示的に接続水域に入れるべきだ。
■ 民間活動家抑制のためにも必要
また、対抗措置は日本国民感情を抑えるためにも行わなければならない。今回の件は中国側に実効支配の積み上げにはつながるものではないが、日本でそのように取られた場合、世論が沸騰する可能性もあるためだ。特に、民間活動家の抑制を図らなければならない。尖閣問題で最も危険な要素は民間活動家の行動にあるためだ。
そのためには対抗措置を早期に実施する必要がある。国民感情の高まりを受けて、彼らが行動を決意し、準備する間に対抗措置を終わらせ、その実施を無効化させなければならないためだ。
■ 疑問点
ただし、今回の報道には疑問な点もある。その第一は、日本護衛艦の位置である。9日朝段階であるが、この点は意図的にボカされているようにも見える。
もし日本護衛艦も同様に接続水域に入ったとすれば、日本の抗議や事件化は的はずれである。それにより中国は何も得ていないためだ。
また、なぜいま中国側がそうしたかも疑問である。日中関係や尖閣問題で何かあったわけではない。
強いて探せば、アジア安全保障会議での日本側の対中シャドー・ボクシングへの対応かもしれない。南シナ海問題について、日本に「やり過ぎたらどうなるか」を示すといったものだ。ただ、それにしてはやり過ぎであるし、警告としても分かりにくい。
逆に日本側の事情による事件化の可能性もある。最近の日本は、本来はさほど問題化できないものを問題視する傾向がある。例えば、日中中間線の向こうで行われている東シナ海ガス田がそれだ。まずは中国に厳しい国内雰囲気に乗ずるため、対中姿勢を強硬にするというものだ。今回の接続水域の件も、同様に日本国内向けの発表である可能性もあるだろう。
■ ただし、国際法的には問題なし
最後に繰り返すが、接続水域での航海は国際法的に全く問題はない。接続水域は沿岸国のごく一部の権利が適用される海面に過ぎず、航行そのものは公海同然であり一切の制約は受けない。
これは尖閣諸島の所属の如何を問わない。島が日本のものであっても中国の軍艦や商船は自由に通過も漂泊もできるし、仮に中国のものであっても日本の軍艦や商船による通過も停止も自由である。
今回の件は日中ゲームでの暗黙のルールには触れる行為だが、法的には全く問題はないということだ。その点、過度に問題視すべきではない。このことは承知すべきである。
(筆者注 : 本記事は9日午前8時段階の情報を元にしている)
*トップ写真:江凱型フリゲート(じゃんかいがたフリゲート、PLAN frigate Jiangkai class)「温州」(江凱I型/054型 2番艦)©︎樱井千一
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