島国が島国であることの意味 英国はEUから離脱するか その1
Japan In-depth / 2016年6月12日 10時14分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
「林信吾の西方見聞録」
手元に『Just Say No』というタイトルの本がある。おそらく未邦訳だと思われるが、強いて邦題をつけるなら『ダメなものはダメ』とでもなるだろうか。サブタイトルに『ユーロ(加盟)に反対する100の理由』とあり、著者は保守党の下院議員を長く務め、反EUの急先鋒として知られるジョン・レッドウッド氏。これでおそらく、読者諸賢には,論旨についておおよその察しがついたのではあるまいか。
そう。この本は、統一通貨ユーロをはじめ、今世紀に入ってから劇的に進展したヨーロッパ統合の動きに反対する、英国の伝統的なナショナリズムを、理論的に正当化したものなのである。もう10年ほども前の話になってしまうが、私はこの著者と、ロンドンで会っている。
こんな問答をした。
ーーあなたは反EU派の論客として有名ですが、私の記憶が確かならば、第二次大戦後、ヨーロッパ合衆国という構想を最初に打ち出したのは、あなた方(保守党政治家)の偉大な先輩である、サー・ウィンストン・チャーチルではありませんでしたか?
「ええ。たしかに彼は、そう呼びかけました。しかしそれは、ヨーロッパ諸国が二度と戦争の悲劇を繰り返すことがないように、との主旨でして、わが国がその中に含まれることなど、想定していませんでした。あなたは彼の、もうひとつの演説をご存じですかな?」
ーーもうひとつと言いますと、鉄のカーテン演説のことでしょうか。
「おっしゃる通りです」
チャーチルの「鉄のカーテン演説」については、ここで長々と引用する余裕はないが、要するに第二次大戦後の世界における、ソ連の脅威をこのような比喩で語ったものだ。
レッドウッド氏の論旨もいわばこれと二重写しで、ヨーロッパ合衆国などというものは、ソ連と対峙するためにヨーロッパ大陸諸国がひとつにまとまっていることには意義があったが、英国がその「合衆国」に組み込まれる必要などない、という。その理由なら100でも並べられるぞ、というのが、著作の主旨でもある。
英国の伝統的なナショナリズムというのも、端的に述べれば、「ヨーロッパと共にあるが、ヨーロッパの一部ではない」という言葉に象徴される。
日本では、島国根性という表現が、しばしば自虐的に用いられるが、英国ではそうではない。ヨーロッパ大陸と海で隔てられているが故に、ナポレオンにもヒトラーにも屈することがなかった、という歴史もあり、島国という地政学的条件をむしろ誇りにしているのだ。
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