降下中のトランプ支持率、その意味 米国のリーダーどう決まる?その18
Japan In-depth / 2016年6月22日 18時0分
大原ケイ(米国在住リテラリー・エージェント)
「アメリカ本音通信」
アメリカ史上最多の犠牲者を出したフロリダ州オーランドのナイトクラブで先週起きた乱射事件を境目に、目に見えてドナルド・トランプの支持率が下がり出している。何が影響していて、この先、どうなるのか?
TVネットワークのABCとワシントン・ポスト紙が共同で行った世論調査では、3人に2人がトランプをunfavorable(好ましくない)、strongly unfavorable(非常に好ましくない)と答えており、他の調査でも支持率は一様に落ち込んでいる。
以前から、もし大統領選挙期間中にフランスやベルギーで起きたような、IS(イスラム国)への忠誠の名の下でのテロ事件が米国内で起こったとしたら、移民規制、IS(イスラム国)への攻撃強化、情報戦のための拷問もどんどんやると息巻いてきたトランプの支持率が上がり、選挙戦を有利にすると予測されてきた。テロが起こった場合に過激な思想に走っていることを通報しなかった家族の者も報いを受けるべきだとさえ言っていた。
だが、支持率が逆に下がってきたのは、トランプが自らしくじったせいだ。被害者や遺族への悔やみの言葉もなく、第一声は「どうだい、エッヘン、俺様の言うことが正しかっただろう」といいたげなツイートだった。
保守派は、この事件をIS(イスラーム国)に一方的に忠誠を誓う「ローン・ウルフ」型のテロ事件と解釈しているが、犯人であるオマル・マティーンはアフガニスタンからの移民を親に持つものの、アメリカ生まれのアメリカ育ちで、以前から件のナイトクラブに出入りしており、彼自身がゲイであった可能性も高い。従ってこれはLGBT(性的マイノリティー)に向けた屈折したヘイトクライムであるとみられている。
また、何度も当局にイスラムテロ組織との関連を疑われた要注意人物である一般市民が、軍用兵器として開発された高性能自動小銃をいとも簡単に買えてしまったという、銃規制の甘さが最悪の結果を生んだ事件であるという見方も否定できない。
これまでの数々の暴言にも増して、今回のトランプの発言がことに評判が悪いのは、ひとえに「どんな悲劇や国内の事件に対してさえ、自分をアピールすることが最優先する人物が、大統領としてふさわしいか」という疑問を新たにしたからだろう。
もう一つ、最近の発言としては、大学とは名ばかりで、実際には詐欺行為に近かった「トランプ大学」の元生徒が起こした裁判を担当した裁判官が、自分に不利な(と感じた)措置を取ったと、これまたアメリカ生まれの裁判官を「メキシカン」だから不公平なのだと言い放ったことが尾を引いている。それは人種差別ではないのか?イスラム過激派テロ組織に対して厳しいことを言っているあなたの裁判をイスラム教徒の裁判官は公平に裁けないのか?とレポーターにたたみかけられて、トランプは発言を撤回・謝罪するどころか「イスラム教徒もダメだ」と言ってしまった。
このせいで、夏の党大会を取り仕切る役目を負ったポール・ライアン下院議長も「発言は明らかに差別的だが、彼自身が差別主義者かどうかは断言できない」という苦しい言い訳に終始している。そして、「党大会においても、それぞれの選挙人が自分の良心に従って候補者に投票するしかない」と発言したことから、トランプが勝ち取った州の選挙人も、多数決の結果ではなく、トランプ以外の候補に投票する可能性を示唆した。
だが、他に有力な共和党候補がいるわけでなく、第3党候補の可能性もないまま、トランプが暴言を吐き続けるのは、そうすることでマスコミに取り上げてもらえるのがわかっているからだ。
一方の民主党は、バーニー・サンダース候補は撤退宣言をしないまま本選モードに入り、スイング・ステーツと呼ばれる激戦州ではヒラリー・クリントン支持のコマーシャルばかりが流れている状態になってきた。「自分は大富豪なので、政治献金に頼る必要がない」ことをウリにしてきたトランプだが、共和党内でもまだ揉めているので、資金が集まらない、というのが本当のところだ。
夏の党大会でも、JPモルガン・チェース銀行、ドラッグストアのウォルグリーンズ、フォード、通信のモトローラ、配送のUPSといった大手企業が4年前の大会に続けてスポンサーとなるのを断り、最近ではトランプにボイコットを呼びかけられたアップルが、スポンサーから降りるとの通告があったことが報道された。
党大会といえば、大統領候補の元に一致団結することが高らかに宣言され、トリコロールの風船が舞い落ちる大団円が思い起こされるが、今年は何か違うものが降るかもしれない。
折しも、トランプが選挙管理委員長を務めてきたコーリー・ルワンドスキーを解雇したとのニュースが入ってきた。彼は早い時期からの熱心なトランプ信者ではあったが、選挙活動、特に全国レベルでの「ファンドレイジング」という寄付金募集活動の経験もなく、時にはトランプを取り巻く各マスコミのレポーターに対する暴挙で起訴されたことさえあった人物。今から後続のベテラン選挙活動家ポール・マナフォートの指揮の下、どれだけ献金を獲得できるかに注目される。
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