朝日新聞の若宮啓文氏を悼む その4 歴史切り取りと日本不信
Japan In-depth / 2016年6月24日 11時0分
「周辺国と摩擦ばかり」というのも日本としては自国の利益を守る、奪われないようにするという主権国家としての努力の結果である。
若宮コラムには次のような記述もあった。
≪「砂の一粒まで絶対に譲れないのが領土主権というもの」などと言われると疑問がわく。では100年ほど前、力ずくで日本に併合された韓国の主権はどうなるのか。小さな無人島と遠い、一つの国がのみ込まれた主権の問題はどうなのか≫
以上もまた、日本の主権や国益はどうなのか、という疑問を生む。日本の主張よりも韓国の主張を優先せねばならない、というような発想を背後に感じさせる記述である。やはり日本という概念の忌避を思わせる。
若宮氏は朝日新聞の主筆を2013年1月まで務めた。私は彼がその主筆として最後の時期に書いた評論記事も点検してみた。2013年1月12日の朝刊に載った「『改憲』で刺激 避ける時」という見出しの記事だった。そのなかには以下の記述があった。
≪過去の歴史の正当化や領土問題での強気と改憲が重なれば、周辺国の警戒が高まるのは防げまい≫
≪この憲法を維持できるかどうかは周辺国の日本への態度によって強く影響される。日本はこうした国から敵視されないために、(憲法改正によって)こちらから刺激する必要もない≫
≪憲法9条は過去に軍国主義で失敗した日本へのメッセージである≫
≪日本が(憲法改正で)名実ともに軍隊を持てばイラク戦争のような間違った戦争にも参加の可能性が高まる≫
若宮氏のこうした主張はまず改憲反対の理由として「周辺国の警戒」「周辺国への刺激」という点を挙げていることがおもしろい。周辺国とは中国、韓国、北朝鮮ということだろう。これらの諸国が警戒したり、刺激されたりするから我が日本は日本国憲法を改正してはならない、というのだ。
しかしどの国でも憲法はまず自国の思想や安全、利害を考えたうえで内容を決めるべきというのが鉄則だろう。だが若宮氏は日本よりも中韓両国などの対応を優先して考え、日本の憲法の扱いを決めるべきだと述べていたのだ。この理屈に従う場合、日本は中国や韓国が許可を出さない限り、自国の憲法は永遠に変えられないことになってしまう。
憲法9条が日本の過去の軍国主義での失敗へのメッセ―ジだというのは、日本不信の宣言に等しい。今の憲法を変えれば、日本はまた軍国主義になるといわんばかりの「日本悪者論」の思考がこの若宮氏の記述には滲んでいた。
憲法を改正すると日本は間違った戦争に参加する、というのも、日本不信、あるいは日本悪者論だろう。全世界の他の諸国がみな鮮明にしている自国の防衛の権利をもし日本が改憲によってうたうと、間違った戦争をするようになる、というのでは、日本だけが全世界でも異様に危険な遺伝子でも保有する例外的な国という意味になる。
つまりは若宮氏の朝日新聞主筆としての最後の記事は日本不信、日本危険視の一文だったのだ。
(その5に続く。その1、その2、その3。全5回。毎日11:00に配信予定。この記事は雑誌月刊「WILL」2016年7月号からの転載です)
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