空気で裁かれる社会の息苦しさ
Japan In-depth / 2016年7月7日 7時0分
為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)
社会の中で、厳密に法が適用されるものとそうではないものがある。例えば、高速道路で1日車の速度を測定していれば相当数の車をスピード違反で捕まえることができる。けれども現状はよほどオーバーしない限りは数キロ程度のオーバーでは捕まることがない。
領収書の類もよくわからないところがある。会社員の人が会食をして領収書をきっているが、それが本当に社外の方と仕事のために必要な会合だったかどうかはよくわからない。
イメージしてみると、それぞれの人がそれぞれの立ち位置に立っている。中心点から3m離れている人もいれば、5m離れている人も、10m離れている人もいる。今までは一切触れられていなかったが、あることがきっかけとして6mより離れている人はアウトになる。
一斉に一人ずつ糾弾されていく。5mにいた人はホッと胸をなでおろし、気付かれないように3m地点まで下がる。6m地点にいた人は自分まで回ってこないのを願いながらまるで昔から5m圏内にいたような顔をしてすっと一歩後ろに下がる。
体罰問題が明らかになった時、けしからんという空気に世の中が染まったけれど、ほんの数十年前に人気ラグビードラマで指導者が生徒を殴るぞと言ってから殴り、人気野球漫画で体罰が行われていた。視聴率はずいぶん高かったらしい。
法ではなく空気で裁かれる社会では、空気が読めないことほど身を危うくすることはない。かくして空気を読む文化が生成されていき、空気が読めない人は排除され、徐々に人々は中心地だけで生きていくようになる。横の人はどこに立っているのか。自分だけ飛び出していないか。常に意識しないといけない。何しろ人とは違うところに立ってしまうと、いつ自分の後ろに線がひかれるかわからないのだから。
茶色の朝で、家のドアをノックされた時に家人は過去に飼っていたペットのことをどう考えたのだろうか。
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