中国徹底抗戦 南シナ海問題仲裁裁判
Japan In-depth / 2016年7月11日 23時41分
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー(2016年7月11日-17日)」
今週の焦点はやはり12日に予定される、中国の南シナ海の主権的権利に関する常設仲裁裁判所の判断ではなかろうか。この問題は意外に複雑だ。フィリピンが提起した問題は全部で15項目あるのだが、これまでに同裁判所が管轄権を認めたものは、いわゆる「主権的問題」などの機微な問題を含まない、7項目だけだからだ。
つまり、仲裁裁判所側も慎重に審理を行い、有名な「九断線」問題など、主権が絡むややこしい問題の判断は事実上先送りしたのだろう。そうだとすれば、中国が今回裁判所の判断で法的に致命的ダメージを受ける可能性は低い。それでも、中国は徹底抗戦の構えだ。政治的には中国の「国家としての面子」が潰れるからだろうか。
先週末の日本参議院議員選挙の結果は概ね想定内だったが、主要邦字紙では一面トップで「改憲勢力で三分の二」という見出しが躍った。よく考えてみてほしい。「カイケンセイリョク」って、一体何のことなのか。彼らには改憲という言葉以外、共通点は少ない。もしかしたら、「護憲勢力」が勝手に貼ったレッテルではないのか。
ワシントンのアジア村の住人の一人が、「日本が直ちに憲法9条の改正に進めば、周辺国は懸念を深める」といった趣旨のコメントをした。そりゃそうだろうが、今憲法9条を本気で弄ろうとする政党が日本にあるとは思えない。米国人専門家だって判っているはずだ。されば、邦字新聞の「思い込み」記事なのだろうか。困ったことだ。
〇欧州・ロシア
12日にはEU経済財政理事会がスペインとポルトガルの過剰な債務に対する制裁に関する手続きを開始するらしいが、何と優雅なことか。EUは過剰債務が市場原理ではなく、話し合いで解決されることの異常さに気付くべきだ。一方、14日にはイングランド銀行が国民投票以来初めて金融政策会合を開く。英国は一体どうするのか。
〇東アジア・大洋州
11日は中朝軍事協定締結55周年だという。中国が誰を平壌に派遣するかが気になるところだ。その中国は11日に南シナ海での軍事演習を終える。12日の仲裁裁判所判断に圧力を掛けるつもりだとしたら、お笑いだ。軍事演習を行って一体何の意味があるのか。中国が国際法を順守する立場を示す方が遥かに効果的だと思うのだが。
〇中東・アフリカ
残念ながら中東で大きな動きはない。15日にはイエメン問題に関する和平会議がクウェートで再開されるが、これで物事に進展があるとは誰も思うまい。シリアもイラクも、リビアもイエメンも、要するに動かない。アラブ諸国の当事者意識のなさには、ほとほと呆れるばかりである。
〇アメリカ両大陸
共和党の党大会は7月18-21日、オハイオ州のクリーブランドで開かれるが、共和党首脳部とトランプ候補との取引が進んでいるようには見えない。「テレプロンプターを読む(良い子の)トランプ」と「アドリブで過激発言を繰り返す(困った)トランプ」が共存する二重人格の大統領候補が生まれそうだ。これで本選に勝てる訳はないのだが。
〇インド亜大陸
11日に印首相がアフリカ諸国歴訪から帰国する。12-13日には、インド国有銀行の5支店が合併する問題で同銀行職員が全国でストライキを行うという。非同盟で元社会主義のインドには色々な問題があるようだ。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
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