日・英に見る「夢見る若者」の虚実とポピュリズム
Japan In-depth / 2016年7月12日 23時0分
渡辺敦子(研究者)
「渡辺敦子のGeopolitical」
10日行われた参院議員選挙で、耳目を集めたニュースの一つは、新たに選挙権を与えられた若い世代の多くが自民党に投票をしたことだった。先月末の英国のEU離脱投票で浮かび上がった、国境のないEUを支持しながらも投票に行かず、投票率の高い老人に「未来を奪われた」英国の若者像との比較が頭に浮かんだ読者も多かったのではないだろうか。
ところが、最近発表されたロンドンスクールオブエコノミクス(LSE)の調査によると、18-24歳の投票率は64%で、予測されていたよりも倍高かったという。スペクテーター誌はこの結果を「若者のアパシーが生んだ結果という常識を何やら覆すもの」と分析、「たとえ若者がさらに投票したところで結果は変わらなかったであろう」というLSEの研究者の分析を伝えている。自民党に投票した若者も、離脱を選んだ若者も、変化を嫌う「保守」と括ることが可能だが、これは、「やはり今の若者は」などと嘆息すべき現象なのだろうか。
2つの結果が示唆するのはむしろ、人は歳をとるにつれて保守的になる、という常識への疑義である。子供を育てた経験がある人はわかるだろうが、本来、幼い子は変化を嫌う。毎日同じリズムで生活させないと、途端に機嫌が悪くなる。子供が冒険をするようになるのは、さまざまな学びを通して世界を知り、自分に自信をつけ、そしてその冒険を年長者が受け止めてくれる、と信じることができるからだ。幼い頃に内向的だった人が成長して一転、外交的になることがままあるのは、このためであろう。
また、政治的リベラルには知的水準の高い人が多いとよく言われるが、これは蓄えた知識が人との違いを受け入れることを助けるからである。この意味では、よく成長した大人こそ、変化を受け入れる自信を持っていなければならない。
私は、2つの「読み違い」が示唆するのは、若者の老人化・保守化ではなく、むしろ「ポピュリズム」と言われるものの真のありかであるように思う。英国の投票で、「老人が若者の未来を奪った」と主張したのは、当事者の若者ではなく、ステレオタイプ化した「若者像」を描いた人であろう。
トランプを支持する人々を「保守的で無知なアメリカ人」とするのも同様である。実際には存在するのは、さまざまな人生経験をもつ若者と、さまざまな教育とキャリアをもつアメリカ人で、彼らはそれぞれの理由で「離脱」「トランプ」「自民党」を支持した。それをひとくくりにして「無知な人々を煽動するポピュリズム」「同調圧力に屈した」などと糾弾するのは、誰であろう。ひとくくりにできない人々をひとくくりにしてしまっては、なぜ「ポピュリズム」に見える現象がこうも現代社会に頻発するのか、その問いを解くことはできないのではないか。
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