朝日新聞参院選報道の支離滅裂
Japan In-depth / 2016年7月13日 11時0分
古森義久(ジャーナリスト・国際教養大学 客員教授)
「古森義久の内外透視」
参議院選挙が終わった。結果は周知のとおり与党の自民党の圧勝である。安倍晋三首相の勝利だともいえよう。憲法改正を支持する勢力が参院全議席の3分の2を超えたことも特徴だった。
この結果を報道する朝日新聞の紙面がおもしろい。自民党に反対し、安倍晋三氏を敵視し、憲法改正に反対してきた朝日新聞にとっては最も嫌な結果が出たということである。「不都合な真実」に直面したともいえよう。朝日新聞は自分たちが決して許さないとしてきた事態が現実となって、その報道姿勢には困惑があふれている。支離滅裂ともいえるズレやゆがみもうかがわれる。
選挙結果を正面から報じるニュース報道の部分では「改憲勢力3分の2」(7月11日夕刊)とか「改憲の動き現実味」(7月11日朝刊)という客観的な見出しの記事を載せている。事実の基本を曲げるわけにはいかないだろう。
ところがその一方で、「投票者たちは実は憲法改正を認めてはいない」という主観的な趣旨のゆがんだ見解を紙面に乱発している。その典型は7月11日夕刊社会面の「『3分の2』知って投票?」という見出しの記事だった。その記事では東京都内の有権者たちの言葉として以下が紹介されていた。
「わからない。憲法なんて読んだことないしねぇ」
「3分の2って、何でしょうね。うーんって感じ。テレビとか見ないんで」
「改憲を最終的に決めるのは国民投票だとは知りませんでした」
以上の3人による3つのコメントはいずれも、今回の参議院選挙の投票にあたっては憲法問題は一切、知らなかったとか、考えなかったという趣旨である。だから今回の選挙の結果は国民多数の改憲への意思表明ではない、というのである。朝日新聞全体の主張に合うコメントであり、その解釈である。
だが私が同じ取材にあたる記者だったら、「今回の参議院選挙では憲法改正を支持する候補や政党を意識して選び、投票しました」という感想を述べる有権者たちを多数、容易に探し出して、そのコメントを報じることができる。朝日新聞のこの記事は明らかに「一般の人は憲法問題を考えないで投票した」という無根拠の前提に合わせる印象操作の色が濃いのだ。
その種の朝日新聞側の意図がもっと露骨で、ゆがみがもっと顕著なのは7月11日朝刊2面の記事だった。主見出しは「憲法『変える必要ある』49%」となっていた。その記事のなかに記者側の解釈として「有権者が投票先を決める際に憲法を重視していなかった」という記述があった。大胆な断定である。だが論拠が薄弱をきわめる。
同じ記事のなかに朝日新聞自身による出口調査で「今の憲法を変える必要があるかどうかを尋ねたところ、『変える必要がある』は49%」という結果が出た、という記述があった。同じ出口調査で「変える必要はない」が44%だったとも書かれていた。つまりこの出口調査で有権者の93%もが憲法の改正に対して明確な答えを出していたのである。それでもなお改憲の是非は投票先を決める際には重要ではなかった、と推測は述べることができるが、断定はできない。
要するに朝日新聞は今回の参議院選で憲法問題を考えず、知識もなく、票を投じた人が多いのだと強調する一方、票を投じた人の9割以上が憲法問題で自分の意見を明確に述べているという調査結果を報道しているのである。だからチグハグ、支離滅裂の批判は逃れられないといえよう。
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