次期国連事務総長選始まる その3 透明性のある選挙か秘密選挙か
Japan In-depth / 2016年7月24日 18時0分
植木安弘(上智大学総合グローバル学部教授)
「植木安弘のグローバルイシュー考察」
今回の事務総長選が前回までと違う点は、総会や市民社会のより積極的な関与と透明性拡大の努力である。4月から7月にかけて候補者の公聴会やグローバル・タウンホールが総会などで行われており、各候補者は立候補声明を発表し、各国や市民社会からの質問に答える作業が行われてきた。また、候補者は積極的な選挙戦を繰り広げ、安保理理事国を訪問し、市民社会との対話を行っている。
この事務総長選で透明性を高めようという努力にも関わらず、実際の安保理の行動を見てみると、安保理での秘密投票方式を維持しようという行動は変わっていない。安保理は、総会議長に対して、仮投票が行われたことは報告しても、投票結果は伝えない決定をした。現総会会期のデンマークのモーゲンス・ライケトフト総会議長は、この安保理の態度に憤慨し、異論を唱えるに至った。安保理のメンバーは、結果を公表しないように、とのことだったが、結果はすぐにメディアによって公表された。ライケトフト総会議長も、メディアから結果を知ったと述べている。
総会はその任命権限から、一人以上の推薦を要求している。一人以上の候補者になれば、全加盟国の投票で最終候補者が選ばれることになる。透明性の拡大や総会権限の強化につながる。しかし、安保理常任理事国がその特権を破棄することは考えにくい。常任理事国は自国に有利な人物を選び、対国連政策や人事の任命で大きな影響力を発揮しようとする。そのため、これまでと同じような秘密投票方式を採用している。従って、安保理による事務総長推薦は一人に落ち着く可能性が高い。
問題は安保理常任理事国5カ国の推薦を獲得できる候補者が出てくるかどうかである。今回はヨーロッパ、特に東ヨーロッパからの選出を望む声が強いことから、ロシアとの関係が重要になる。ロシアは当然自国との関係が良好な国からの候補者を望むであろう。ただ、ロシアとの関係が緊密な国になると、米国が支持しない可能性が高くなる。イギリス、フランス、中国は自分の欲しいポストを獲得することに集中し、最終的には米ロが合意する候補者を支持することが予想される。
米ロが別な候補者を強く推した場合には、第3の候補者が選出されることになろう。その場合、日本を含む非常任理事国の動向が重要になる。仮投票で常任、非常任両方の票を多く獲得した候補者が有利になる。非常任理事国の中にはウクライナがおり、ロシアが推す候補には反対するであろう。今回候補者を出していないアジア(日本、マレーシア)とアフリカ(アンゴラ、エジプト、セネガル)が最終的にどの候補に投票するかも注目される。ラテン・アメリカ(ウルグアイ、ベネズエラ)は、同地域からの二人の候補者が仮投票で十分な票を獲得できなかったため、別な候補に切り替えるであろう。その票の行方にも注目が集まる。
(その4に続く。その1、その2。全4回)
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