予防できぬ大量殺人が目的化するテロ
Japan In-depth / 2016年7月26日 11時30分
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー(2016年7月25日-31日)」
先週は世界各地でテロ・暴力事件の「箍(たが)が外れた」ような惨状が続いた。7月14日ニースで起きたトラック・テロから、18日のドイツ・バイエルン州での列車内襲撃事件、22日のミュンヘンでのショッピングセンター銃撃事件、23日のカブールでの自爆テロが続き、昨24日にはドイツ南西部で再び自爆事件が起きた。どうなっているのか。
これまでドイツの警備はしっかりしているという印象があったが、これも今や神話に過ぎない。ラマダン月とか金曜日といった解説も無意味だろう。ISISなどが犯行声明を出した事件もあれば、単なる異常者の犯行と思えるものもある。ちなみに、欧州刑事機構Europolによれば、2015年に欧州で発生したテロ事件は211件だそうだ。
昔はテロにも政治的意味付けがあったが、今は大量殺人自体が目的化しつつある。恐ろしい時代になったものだ。どこからがイスラム過激派のテロで、どこからが”mentally disabled”なのか。この線引きすら曖昧になりつつある。後者は明らかに欧州の「ダークサイド」の一部だ。欧州のテロ・暴力の予防は増々難しくなるだろう。
〇欧州・ロシア
政治的混乱が続くスペインでは26日に国王が収拾に動き出した。27日には欧州委員会がスペインとポルトガルの財政赤字問題を討議する。29日には欧州中央銀行のストレステストの結果が公表される。英国のEU離脱に続いて、大陸諸国の問題が表面化しなければ良いのだが・・・。
〇東アジア・大洋州
24-27日、米国のライス国家安全保障担当補佐官が訪中する。この人ほど戦略問題に知見のない大統領補佐官も珍しいのではないか。しかし、彼女以上に知見がない、というか従来の常識を疑ってきたのがオバマ大統領自身であることを考えれば、彼女の問題だけではないのだろう。
25日にはフィリピン大統領が政策演説を行い、25-26日にはASEAN関係の一連の外相会議が続く。今回の議長国はラオスだから、南シナ海問題で中国に対し意味のある共同声明が出る可能性は低いだろう。ローカルニュースだが、31日に日本で都知事選挙がある。当然ながら、国際的には全く注目されていない。
〇中東・アフリカ
個人的にはトルコが気になる。エルドアンの最近の動きは非常に危険だ。ある程度民主主義から逸脱しても、米国は重要なNATO同盟国のトルコを切り捨てないと足元を見ているのか。一方、ロシアは米国とトルコの離反を画策している。19世紀的な露土両帝国の対立が形を変えて復活しているような気がする。
○アメリカ両大陸
先週の共和党党大会は「結束・統一」には程遠い結果に終わった。他方、今週の民主党党大会も波乱含みだ。民主党全国委員会委員長(女性)が辞任に追い込まれたが、スキャンダルの発端となったeメールをリークしたのはトランプの勝利を望むロシアだったという。本当ならば、「事実は小説より奇なり」、ということか。
〇インド亜大陸
25-26日にインドでBRICS諸国が政策企画会議を開くそうだ。BRICS、懐かしい名前ではないか。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
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